「エツトは、カエさんのために自分の地位を捨てられるのか?」
投げかけられた言葉に反応して、エツはぴたりと足を止めた。張り詰めた空気が漂い、私はひとりハラハラしている。
「君についていくとなったら、カエさんは若女将の仕事も、家族も友人も置いていかなきゃいけない。外国暮らしはいくら愛があっても心細くなるに決まっている。そんな彼女のために、自分が日本に残る選択肢を考えたことはないだろう」
エツは前を向いたまま動かず、どんな表情をしているかはわからない。ラヴァルさんは彼のすぐそばにゆっくりと歩み寄り、挑発的な視線を突き刺す。
「エツトは結局、自分のことしか考えていないんだよ。それで本当に彼女を守れるのか?」
やや冷たさを含んだ厳しい声が響き、握られた手の力がぐっと増すのを感じた。
確かに私も、エツが日本に残るなんて選択肢は考えたことはなかった。ラヴァルさんのように、ひぐれ屋を継ぐなんて言ってくれる人がいるとも思っていなかったし。
皆が言う通り、日本に残ればラクだけど、私は……。



