「花詠さんはひぐれ屋の若女将をしているのよね? レトロな旅館も大好きだから絶対行きたいんだけど、なかなか機会がなくて」
「ありがとうございます。お時間ができればぜひいらしてください。槙木さんも、まだしばらくは日本に?」
「ええ。あと二年は固いけど、もっと長くなる可能性も十分あるかな。今度異動になったらタイとかシンガポールとか、アジア圏に行ってみたいわね」
生き生きとした表情で語る彼女は、私とはまったく違う世界を見ていて若干の引け目を感じる。エツと同じフィールドに立っているのも、やっぱりちょっと羨ましい。
尊敬すると同時に羨みを抱いていると、槙木さんは壁際で話しているエツのほうを眺めてなにげなく言う。
「それにしても、まさか石動くんが婚約しちゃうなんてねぇ……。なんだろう、この寂しい気持ち」
え、寂しい!?
本人もよくわかっていないように首をかしげているけれど、私はギョッとしてしまう。まさか、槙木さんもエツのことを……⁉
ライバル登場かとつい彼女を凝視した直後、その瞳がこちらを向いたので慌てて目を逸らす。



