S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 五月最後の水曜日の夕方、私は初めて在日フランス大使館を訪れた。

 建物は美術館のような外観で、鏡のように綺麗な壁が木々に囲まれている。官邸内に入ると、航空会社やファッションブランド、食品メーカーなど、協賛の企業の商品がオシャレにディスプレイされていて、見ているだけで楽しめた。

 今夜行われるパーティーの主催は、フランスと日本のビジネスや文化などを雑誌で紹介している出版社だ。大使館で行われるこういったイベントは、他にもわりと頻繁にあるらしい。

 参加者の女性はきらびやかなドレスを纏った方がほとんどで、着物の私は浮いているんじゃないかとそわそわしてしまう。

 開会の挨拶は現フランス大使が行い、出版社の社長が国の魅力について説明した後は、食事をしながらの歓談タイムが始まった。

 照明も明るくなり、有名な政治家が数人いるのを見つけて、私は圧倒されながら呟く。


「すごい、ニュースで見る人が何人も……」
「挨拶するだけで大丈夫だから」


 私をエスコートしてくれるエツは、当然こういう場には慣れていて軽く笑う。すでに何人か挨拶を済ませたけれど、まだまだ序の口だ。