「威嚇しちゃって」
「なに?」
「いえ、別に。それよりどうしたの?」
「今度の休みの予定を決めるついでに、花詠の顔を見に」


 エツはやや声をひそめ、さらっと嬉しいことを言った。休日にわざわざ職場にまで会いに来るなんて、彼に似合わぬ甲斐甲斐しさで胸キュンなんですが。

 私は内心とても喜びつつ、表面上はあくまで冷静にロビーを指差す。


「じゃあ、そこで待ってて」
「茶もお着き菓子もいらないぞ」
「最初から出す気はありません」


 人前では塩対応になるのが癖になってきているな……と、複雑な気分でロビーのソファに座る彼を眺める。そこへ、物陰からこちらの様子を見ていたらしい仲居のおばちゃんふたりが、ササッとやってきた。

 ベテランのふたりは暮泉家と石動家の確執についてもよく知っているので、カウンターに身を乗り出して心配そうに声をかけてくる。


「花詠ちゃん、あの彼になにかひどいことされたらすぐ言うのよ」
「そうよ、私たちも相談に乗るから。ねっ?」


 どうやら今も、私たちがケンカしているように見えたらしい。私は「あはは……」と苦笑を浮かべ、曖昧に頷いておいた。