でも、なんだか今日の彼は冷ややかな空気を纏っていて、またしても不機嫌そうだ。これも皆を欺くための演技だろうか。

 ここは仲居さんもよく通るので、私も反射的に親密さを隠そうと口を尖らせる。


「ちょっと、また時間外に……! 来るなら来るって連絡してください」
「婚約者特権だ。突然来られたらマズいことでもしてんのか?」
「してないけど!」


 なんとなく棘がある口調のエツは、鋭い瞳を私ではなく見習いの彼に向けている。

 それを見て瞬時に察した。今エツは犬猿の仲を演じているわけではなく、単純に嫉妬しているのだと。

 私が男の子と笑って話していたからか。ラヴァルさんの件といい、案外ヤキモチ妬きなんだな。……可愛い。

 口元が緩みそうになる私に対し、睨まれた見習いくんはぴしっと背筋を伸ばす。「じ、じゃあ僕はこれで! 失礼しますっ」と早口で言い、そそくさとこの場から逃げ出した。

 なんかごめんね……と心の中で謝った私は、じとっとした目で見送るエツを一瞥してボソッと呟く。