彼はこの春、専門学校を卒業して板前修業をしに入ったばかり。背が高く体格もよくて大人っぽく見えるが、弟と近い二十歳なのでなんとなく気にかけている。


「お疲れ様です。板前修業はどうですか? 順調?」


 笑顔で話しかけると、見習いくんも愛想よく会釈して元気よく答える。


「はい! 毎日勉強になることばかりで。料理長は怒ると怖いですけど」
「だよね。今はパワハラになりますよ!ってしつこく言ってあるから大丈夫」
「それ、なんか逆に不安が」


 彼はとてもいい人なので話が弾み、笑い合いながらしばし近況を聞いていた。

 その時、玄関の扉が開いて誰かが入ってくる。目をやった私は、いつかと同じように突然やってきた人物にドキリとした。


「花詠、お疲れ」


 クールな表情で近づいてくるのは、シンプルカジュアルな私服姿も素敵なエツだ。そういえば、今日は土曜日か。

 せっかく考えないようにしていたっていうのに、本人が来ちゃったらもう無理だよ! 今、絶対顔が赤くなっている。