皆の箸を用意したのは仲居さんだったから、母が気づいて変えておいたんだ。お客様が少しでも心地よく過ごせるようにするのは、母にしてみれば当然のことなのだろうけど、敵対している相手にも同じ心遣いをしてくれて私も嬉しい。
母たちの雰囲気がみるからに温かくなる。やっぱり、相手を思いやる心はその人たちの関係も良好にするのだ。
母たちだけでなく私も、エツも自然に口元がほころんでいる。
「ひぐれ屋は石動グループの集客施策のノウハウを、石動グループはひぐれ屋のおもてなし精神を伝授し合う。協力関係を築けば、両者にとってプラスになるのは間違いないと思いませんか?」
希望に満ちた提案をするエツに、私は尊敬の眼差しを向ける。
彼はきっと、こういう方法で両親の関係を修復させようと考えていたのだ。交渉も上手だし、さすが外交官様。
「すごいです、悦斗さん。俺は賛成」
「私も」
私と同じく目を輝かせてエツを見つめる祥が賛同し、私もそれに続いた。
「……うん。いいと思うわよ」
さらに、前向きな反応を見せたのは母だった。母は以前から私たち寄りの考えだったから、今しがたの美波さんとのやり取りも後押しになったのかもしれない。



