S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 彼はまるで会議中のような調子でそう語った。

 日本のホテル事業ではトップクラスの石動グループが、海外ではそんな問題を抱えていたなんて。意外だけれど、私たちと同じ悩みがあったんだなと、少しほっとした気持ちにもなる。

 エツもひとつ頷き、自分の考えを話す。


「世界各国の旅行客を集めるために、日本らしい〝おもてなしの心〟を押し出してみてはどうかと。そこで、一流のサービスを提供しているひぐれ屋さんの知恵をお借りするんです」
「なるほど……いいかもしれない」


 エツの言葉に私たち暮泉家の皆が大きく目を見開く中、実弦さんは表情を明るくして頷いた。

 私たちが行っているサービスを対価にしようとするとは。考えもしなかった案に驚いていると、ふいにエツのお母様が口を開く。


「あのね、実は私感動してたの。今日のおもてなしに」


 予想外の言葉を口にした彼女は、私の母に優しげな眼差しを向ける。


「私が左利きだって覚えていたのね。ちゃんと箸の持ち手を左にしてくれてあったわ。こんなに細やかな気遣いができる人、今の石動グループにどれだけいるか。簡単にはできないことよ」
美波(みなみ)さん……」


 作りものではない笑みを浮かべる彼女に、母は驚きと感動が交ざった様子で名前をこぼした。