「ごちそうさま。釣りはいらない」
「えっ、石動さん!?」


 戸惑う彼女の声を背に、急いで茶房を飛び出した。

 本館の入り口へ向かうと、ちょうど花詠が出てくる。俺を見て驚く彼女の手を引いて人気のない脇道に入り、この腕の中に閉じ込めた。

 ……甘い香り、柔らかな身体、少し乱れた息遣い。触れるたび愛しくてたまらなくなる。


「俺のそばにいろ。この先もずっと。あの人にも、誰にも花詠はやらない」


 堰き止めていた水を放出するかのごとく、何年も前から押し殺していた想いを吐き出した。彼女はもがきもせず、瞳を潤ませて俺に抱かれている。

 溺れてしまえばいい。この愛の中では、ただ幸せになるだけだから。

 俺の想いを聞いて、夜露のように輝く涙を溜めた花詠の頬に、そっと手を添える。


「泣くほど嫌か」


 彼女は首を横に振り、可愛くしがみついてくる。嫌がられていないことくらいわかっていたが、あえて確認してみたんだ。


「私もずっと、大好きだったから」


 ──お前の唇が紡ぐ、その言葉が聞きたくて。

 長い長い片想いに、ようやく終止符を打てた。まだまだ問題は残っている。だが今は、気持ちが通じ合えただけでいい。

 この瞬間だけはなにもかも忘れて、手に入れたものの大切さを噛みしめていた。