……は?
思いもよらない事実がさらっと告げられ、みるみる顔が強張る。
「花詠と?」
「はい。なんか姉ちゃん、すげー口説かれてましたよ。甘い微笑みで〝君に会えてよかった〟的なことを言われてて。フランス人ってさすがですね」
祥が感心したように頷きながら話すのを聞き、急激に危機感を掻き立てられた。
あの人、朝チェックアウトして帰ったんじゃなかったのかよ。花詠のことだからきっと彼のためにここを紹介したんだろうが、ふたりきりになっていたというだけで心は穏やかじゃいられない。
「姉ちゃん、いつもより早く上がったんで、もしかしたら今夜会うって約束でもしたんじゃ──」
祥がニヤニヤしてそう言った瞬間、俺は弾かれたように立ち上がった。驚く彼に、焦燥を露わにして確認する。
「花詠はもう帰ったのか?」
「あ……たぶんそろそろ着替え終わった頃じゃないかと」
彼は目をしばたたかせて教えてくれた。
さすがに今夜も会うなんてことはないだろう。でもそれは関係なく、今すぐ会いたい。あいつがどう思っているのかもはっきりさせておきたいんだ。
先ほどの女性が持ってきた茶を手に取ると一気に飲み干し、唖然としている彼女たちをよそに千円札を一枚テーブルに置く。