あからさまに不機嫌さを顔に出してしまったので、さすがに花詠も気づいたらしく、遠慮がちに部屋を出ていった。ふたりきりになった部屋に微妙な空気が漂う。
まず沈黙を破ったのは、お猪口を口に運ぶラヴァルさんだ。
「そういうことだったのか。まさか彼女がエツトの最愛の人だったとはね」
話しやすいフランス語に変えて、彼は言った。
その表情には嫌味のない笑みが浮かんでいたものの、次いでやや挑戦的な視線をこちらに向けてくる。
「でも、まだ恋人にはなっていないんだろう? なら、デートを申し込んだってなにも問題はないはずだ」
「問題あります。俺が嫌なので」
「ワガママだな!」
間髪を容れずに物申すと、彼は子供みたいに口を尖らせた。ライバルなのは困るが、正直で憎めない人なのだ。
彼は単純に気になった様子で疑問を投げかける。
「そこまで愛している人なのに、どうして今まで野放しにしていたんだ? 無防備すぎるだろう」
ラヴァルさんの言うことはもっともだ。あんなに可愛くて性格のいい子が、今も誰かのものになっていないのは奇跡かもしれない。俺も自分に呆れているよ。
しかし、それが最良だと思っていたのだ。彼女と再会するまでは。



