S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 その日の晩は、久しぶりに心が躍るひと時となった。お偉いさん方との気を遣うパーティーばかりに出ている俺にとって、お互いだけを存分に目に映し、自然に笑い合える花詠との時間はとても癒やされる。

 しかし未来の話になると、彼女は「許嫁じゃなくなってよかったのかもしれないね、私たち」なんて言う。


「私は外国どころか他県にすら移住できなそうだし、エツも日本に留まっていられないでしょう。私がこうやって海外で自由にできるのは、最初で最後かも。……エツと、こんな風に過ごすのも」


 切なげに微笑む彼女を見て、これまでにないほど胸が苦しく締めつけられた。

 俺が結婚する気がないのは本当だ。ずっと一緒にいたいと思える相手なんて、花詠しか考えられないのだから。

 外国人も含めてたくさんの女性と出会ったが、心を動かされる人はいなかった。理由はうまく説明できなくても、俺が求めるのは花詠だけだというのはなぜかはっきりしている。

 だが、彼女が誇りを持っている若女将の仕事を取り上げることはできないし、両親たちはいまだに絶交状態。俺と一緒になるのはまず無理だろう。

 きっと彼女もそれをわかっている。だからって……。


「そんな顔して最後とか言うなよ」


 本音をこぼし、柔らかな頬に触れた。