S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 時間があれば外で休憩し、同じように気を配る。運命の一日となったその日も、たまたまクレベール広場で街ゆく人々を眺めながら昼食を取っていた。

 まさかそこで、会うはずがないと思っていた人に再会するとは。


「……花詠?」


 信じられなくて、思わず声に出していた。

 旅行している日本人は、服装や雰囲気でだいたいわかる。彼女がひとりで観光していて、フランス人に話しかけられて困っている様子なのはすぐに察した。

 他人の空似か?と半信半疑なまま近づいていくと、声や顔がはっきりとわかり、花詠に違いないと確信した。そして、おそらく麻薬を渡されそうになっている。

 急いでふたりの間に割り込んで男性の手を掴んだ瞬間、彼女がこちらを振り向いて大きく目を見開いた。


「え、エツ……!?」


 数年ぶりに名前を呼ばれただけで、胸の奥が疼く。が、今はそれどころではない。

 バッグの中を見せろと言うと、男は明らかに形相を変え、ジーンズのポケットに手を伸ばした。警察から銃を所持している可能性があると聞いていたため、すぐに反応して取り出すのを阻止した。