俺が大学生だった頃、たまたま学校で彼女が必死にノートを取っているのを見かけた。
普通に勉強しているのかと思いきや、見えたページには誰かの名前や特徴みたいなものがびっしりと綴られていたので、俺は首をかしげた。
『なにそれ』
『あー、これまでひぐれ屋に来たお客様の情報を書いておくことにしてるの。昨日、寝落ちちゃって書けなかったんだよねぇ』
『お客さん全員書いてんの? 毎日?』
『うん』
当たり前のように頷く彼女に、俺は驚きながらも深く感心した。そこまで努力しているとは思わなかったから。
『人によって、してもらって嬉しいことって違うでしょ。それを覚えておいたら、またいつか来てくれた時に〝自分のためにしてくれたんだ〟って喜んでもらえるかなって』
笑ってそう話す花詠の瞳は、生き生きとした新緑のようにとても綺麗だった。
俺も領事館に助けを求めてくる人たちひとりひとりに、真摯に対応することを心がけよう。国民を大切にしてこそ、さらに日本を愛することができる。国のために交渉を行うのはそれからだ。
花詠と接していつの間にかそう考えるようになっていて、今の俺がある。



