S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 外交官になったら、確実に花詠と離れる。進路を決めた時は、もう許嫁ではなくどうせこの関係が変わることもないのだから、離れても構わないと思っていた。なのに今は……正直、少し寂しい。


「それでも、外交官以外の道を選ぶ気にはなりませんでしたね」


 鴨肉のシャルキュトリーを口へ運びながら言うと、槙木さんは興味深げに俺の顔を覗き込む。


「石動くんは前から領事を希望してるよね。あなたは筋がいいし度胸もあるし、将来は最前線で外交交渉もできそうだけど、このまま大使館で働きたいとは思わないの?」


 領事館は相手国に居住する自国民の保護を主に行うところで、大使館のように自国民の政治的代表として相手国と交渉を行う権限は持たない。

 各国と良好な関係を築くためにコミュニケーションを取ったり、困難な交渉をまとめたりする重要な仕事に興味がないわけではないが、普段から一般市民に寄り添える領事のほうが今の俺にとっては大事だと思っている。

 そう考えるようになったのは昔領事館で助けられたことだけでなく、花詠から受けた影響も大きい。