S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 ふたりの気持ちもわからなくないし、考えれば他にもっといいやり方があっただろう。だが、自分が間違ったことをしたとも思っていない。俺は、花詠を守れればそれでよかった。

 とはいえ、この一件がきっかけで、俺たちの距離は縮まるどころかさらに開いてしまった。俺と会ったら花詠が父親に責められるだろうし、まだ大学生の自分では彼を説き伏せる力もないとわかっていたので、関わるのはためらわれた。

 結局、子供の頃となにも変わっていない。そんな自分が情けないし、もっと人間的に成長したい。

 いつか、また会えた時には自信を持った男でいられるようにと、その〝いつか〟が訪れることを密かに願って、俺は外交官の道を歩み始めた。


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 在外語学研修が始まったその年、パリで行われた忘年会で、俺は当時のことを思い出していた。

 花詠と疎遠になったまま約三年が経ったが、入省してからは目が回るほど忙しく、彼女のことを考える余裕はあまりなかったのであっという間だった。

 最初の約二年間は外務省の部署で、三年目の今は在フランス日本国大使館で働きながら語学研修を行っている。フランス語は入省してから初めて触れたので覚えるのは大変だが、日常会話なら困らないくらいにはなった。