エレミーの切迫した声が沈黙を破った。



「魔物来ます! 一匹だけど……何なの、この強烈な魔力! ダメ! 逃げなきゃ!!」

 そう言って真っ青になって駆けだした。

「マジかよ!」「やめてくれよ!」「なんなのよ、も――――!!」

 みんな悪態をつきながら一斉にダッシュ!

 青い顔しながら、エレミーを追いかける。

 俺はみんなを追いかけながら後ろを振り返る。すると、ズーン、ズーンという地響きの後、一つ目の巨人が森の大木の上からにょっきりと顔を出したのが見えた。

 キタ――――!! デカい!

 身長は20メートルはあるだろうか?

 青緑色のムキムキとした筋肉が巨大な棍棒をブウンブウンと振り回しながら、圧倒的な迫力で迫って来る。2メートルはあろうかという目はギョロリと血走り、俺を見据えた。



 鑑定をしてみると……



サイクロプス レア度:★★★★
魔物 レベル180



 おぉ、これがサイクロプス、すごい! すごいぞぉ! VRゲームで見たことはあるが、やっぱりリアルで見たら迫力が全然違う。やっぱり異世界は最高! 思わずにやけてしまう。



 とは言え、レベル180はヤバい。このままだとパーティが全滅してしまう。しかし、俺が派手に立ち回るのは避けたい。どうしよう……?



 俺は一計を案じると立ち止まり、転がっている石の中からこぶし大のちょうどいいサイズの物を拾った。

 サイクロプスは俺を餌だと思って走り寄ってくる。ズーン、ズーンと揺れる地面、すごい迫力だ。

 俺は石を持って振りかぶると、サイクロプスに向かって全力で投げた。石は手元で音速を超え、バン!と衝撃波を発生させながらマッハ20くらいの速度でサイクロプスの目を貫く。

 直後、サイクロプスの頭は『ドン!』と派手な音を立てて爆散し、即死した。



 爆音に振りかえるメンバーたち。

「え?」「なんだ?」

 ゆっくりと崩れ落ち、ズシーン!と轟音を立てながら倒れるサイクロプス。

 みな走るのをやめ、予想外の事態に唖然(あぜん)としている。

 全滅必至レベルの強敵が、荷物持ちの少年を前に自滅したのだ。理解を越えた出来事に言葉もない。



 エドガーが俺に駆け寄ってくる。

「ユータ、いったい何があったんだ?」

「魔物を倒すアーティファクトを使ったんです。もう大丈夫ですよ」

 俺はそうごまかしてニッコリと笑った。



「アーティファクト!? なんだ、そんなもの持ってたのか!?」

「ただ、高価ですし、数も限りがありますから早く脱出を目指しましょう」

「そ、そうだな……しかし、どこに階段があるのか皆目見当もつかない……」

 悩むエドガー。

「私が見てきましょう。隠ぺいのアーティファクト持ってるので、魔物に見つからずに探せます」

「ユータ……、お前、すごい奴だな」

 エドガーはあっけにとられたような表情で言う。



 エレミーが駆け寄ってきて、俺の手を取り、両手で握りしめて言う。

「ユータ、今の本当? 本当に大丈夫なの?」

 目には涙すら浮かんでいる。

 俺はちょっとドギマギしながら、

「だ、大丈夫ですよ、みなさんは休んで待っててください」

 俺はニッコリと笑った。

 そして、近くの大きな木の陰にリュックを下ろし、

「ここで待っててくださいね」

 と、みんなに言う。



 アルは、

「いいとこ見せられないどころか、お前ばっかり、ごめんな」

 と、言ってしょげる。

「あはは、いいってことよ。みんなに水でも配ってて。それじゃ!」

 俺はアルの肩をポンポンと叩き、タッタッタと森の中へ駆けて行った。

 十分に距離が取れたところで、俺は隠ぺい魔法をかけて空へと飛んだ。上空から見たら何かわかるかもしれない。

 俺はどんどん高度を上げていく。眼下の景色はどんどんと小さくなり、この世界の全体像が見えてきた。森に草原に湖……でもその先にまた同じ形の森に草原に湖……。どうやらこの世界は一辺十キロ程度の地形が無限に繰り返されているだけのようだった。一体、ダンジョンとは何なのだろうか……?

 よく見ると、湖畔には小さな白い建物が見える。いかにも怪しい。俺はそこに向かった。



 綺麗な湖畔にたたずむ白い建物。それは小さな教会のようで、シンプルな三角の青い屋根に、尖塔が付いていた。なんだかすごく素敵な風景である。

 ファンタジーって素晴らしいな……。俺はつい上空をクルリと一回りしてしまう。

 湖畔の教会はまるでアートのように美しく、俺の心を癒した。



 あまりゆっくりもしていられないので、入り口の前に着地し、ドアを開けてみる。

 ギギギーッときしみながら開くドア。

 中はガランとしており、奥に下への階段があった。なるほど、ここでいいらしい。と、思った瞬間、いきなり胸の所が爆発し、吹き飛ばされた。

「ぐわぁ!」

 耳がキーンとする。

 どうやらファイヤーボールを食らってしまったらしい。ちょっと油断しすぎだ俺。



 急いで索敵をすると、天井に何かいる。



ハーピー レア度:★★★★
魔物 レベル120



 赤い大きな羽根を広げた女性型の鳥の魔物だ。大きなかぎ爪で天井の(はり)につかまり、さかさまにコウモリのようにぶら下がっている。大きな乳房に怖い顔が印象的だ。

 ハーピーはさらにファイヤーボールを撃ってくる。俺はムカついたので、瞬歩でそばまで行くと飛び上がって思いっきり殴った。

「キョエー!」

 断末魔の叫びをあげ、赤い魔石となって床に転がるハーピー。



「油断も隙も無い……」

 俺はふぅっと息をつき、魔石を拾ってその輝きを眺めた。ルビー色に輝く美しい魔石、ギルドに持っていけば相当高値で売れるだろう。だが、入手経路を問われたらなんて答えたらいいだろうか……? 止めておくか……。



 さて、階段は見つけた。みんなをここへ連れてこなくては……。

 俺はみんなの方へ走りながら索敵をする。草原をしばらく行くと反応があった。鑑定をかけると、



オーガ レア度:★★★★
魔物 レベル128



 と、出た。筋肉ムキムキの赤色の鬼の魔物だ。手にはバカでかい(おの)を持ってウロウロしている。

「おぉ! あれがオーガ! なるほどなるほど!」

 俺はピョンと飛んで、オーガの前に出て、

「もしかして、しゃべれたりする?」

 と、話しかけてみる。



 しかし、オーガは俺を見ると、



「ウガ――――!」

 と、うなって斧を振りかぶって走り寄ってくる。



「何だよ、武器使うくせにしゃべれないのかよ!」

 俺はそう言って、高速に振り下ろされてきた斧を指先でつまむと、斧を奪い取り、オーガを蹴り飛ばした。



 早速斧を鑑定してみるが……、オーガとしか出ない。

 蹴った衝撃で死んでしまったオーガが消えると、斧も一緒に消えてしまった。

 どうやら斧はオーガの一部らしい。魔物の武器が売れるかもと期待した俺がバカだった。

 それにしてもこの世界は一体どうなっているのか? なぜ、こんなゲームみたいなシステムになっているのだろう……。

 ヒュゥと爽やかな風が吹き、草原の草はサワサワといいながらウェーブを作っていく。この気持ちのいい風景の中に仕組まれた魔物というゲームシステム。誰が何のためにこんなものを作ったのだろうか……。

 俺は朱色に光り輝くオーガの魔法石を拾い、眺めながら、しばし物思いにふけった。









1-17. 呪われた階段



 またしばらく行くと魔物の反応があった。草むらの中をかがんで移動し、そーっと(のぞ)いてみると……



ゴーレム レア度:★★★★
魔物 レベル110



 今度は岩でできたデカい魔物だ。巨大な岩に大きな石が多数組み合わさって腕や足を構成し、ズシン、ズシン、と歩いている。岩タイプには『水』か『草』か『格闘』タイプだったなぁとポケモンの知識を思い出すが、この世界がどうなっているかは良く分からない。

 俺は試しに水魔法を威力控えめにして当ててみる。

「ウォーターボール……」

 三メートルくらいの水の球がニュルンッと現れると、日差しにキラキラと輝きながら草原の上を走り、ゴーレムに直撃する。

 ドッパーンと水が激しくはじけた。

 しかし……、全然ダメージを与えられていない。ゴーレムは怒ってこっちに駆けてくる。やっぱり岩に水はダメなんじゃないか? 綺麗に洗ってやったようにしか見えない。

 では、火か、風か、雷か……、どれもなんだか効きそうにない。うーん、どうしよう?

 そうこうしているうちにもゴーレムは近づいてくる。

 仕方ない、俺は来るときに見かけた小川の所まで戻ると、投げられそうなものを探す。スーツケースくらいの岩があるので、岩をよいしょと持ち上げた。



 草原の向こうからズシン、ズシンとすごい速度でゴーレムは駆けてくる。

 俺はサッカーのスローインみたいに岩を頭上に持ち上げると、「セイヤッ!」と掛け声かけてゴーレムに投げつけた。

 岩は音速を超え、隕石のようにゴーレムに直撃する。

 ドォン!という激しい爆発音とともにもうもうと爆煙が吹きあがった。

 パラパラと破片が降ってくる。どうやらゴーレムは粉々に砕け散ったようだ。

「あー、やっぱり岩には岩がいいみたいだ」

 俺はニヤッと笑った。



 その後も何匹か魔物を倒しながらみんなの所を目指す。魔物はみなレベル100オーバーであり、かなり強い。中堅パーティでは到底勝ち目がない。一体ここは何階なのだろうか?



      ◇



「階段ありましたよー!」

 遠くに見えてきたみんなに、俺は手を振りながら叫ぶ。

 エレミーは、駆け寄ってきて

「ユータ! あれっ! 服が焦げてるじゃない! 大丈夫なの?」

 と、目に涙を浮かべて言う。

「え?」

 俺はあわてて服を見ると、革のベストが焼け焦げ、ヒモもちぎれていた。

 ハーピーにやられたことを忘れていた。

「ユータ、ごめん~!」

 そう言うとエレミーはハグしてきた。

 甘くやわらかな香りにふわっと包まれ、押し当てられる豊満な胸が俺の本能を刺激する。いや、ちょっと、これはまずい……。

 遠くでジャックが凄い目でこちらをにらんでいるのが見える。

「あ、大丈夫ですから! は、早くいきましょう。魔物来ちゃいますよ」

 そう言ってエレミーを引きはがした。

「本当に……大丈夫なの?」

 エレミーは服が破れてのぞいた俺の胸にそっと指を滑らせた。

「だ、だ、だ、大丈夫です!」

 エロティックな指使いにヤバい予感がして、エレミーを振り切ってリュックの所へ走った。心臓のドキドキが止まらない。



 エドガーは、心配そうに

「階段はどこに?」

 と、聞いてくる。

「あっちに二十分ほど歩いたところに小さなチャペルがあって、そこにあります」

「チャペルの階段!?」

 ドロテはそう言うと天を仰いだ。

 チャペルにある階段は『呪われた階段』と呼ばれ、一般に厳しい階につながっているものばかりだそうだ。

 みんな黙り込んでしまった。



 強い風がビューっと吹き抜け、枝が大きく揺れ、サワサワとざわめく。



「とりあえず行ってみよう!」

 エドガーは、大きな声でそう言ってみんなを見回す。

 みんなは無言でうなずき、トボトボと歩き出した。



 アルはひどくおびえた様子でキョロキョロしているので、

「この辺は魔物いなかったよ、大丈夫大丈夫」

 と、背中を叩いて元気づけた。

 アルは、

「ニ十分歩いて魔物が出ないダンジョンなんてないんだよ! ユータは無知だからそんな気楽なことを言うんだ!」

 と、涙目で怒る。まぁ、正解なんだが。



        ◇



 無事階段についたが、みんな暗い表情をしている。

「やはりさらに下がるしかないようだ……。みんな、いいかな?」

 エドガーはそう、聞いてくる。

 どうも、階段には上に行ったり、外に出られるポータルなどもあるらしい。帰りたい時に下だけというのは『はずれ』ということみたいだ。



 お通夜のように静まり返るメンバーたち。下に行くということは難易度が上がるということ、死に近づくことだ、気軽に返事はできない。



「まずは行ってみるしかないのでは?」

 僧侶のドロテが眼鏡を触りながら淡々と口を開いた。

 メンバーの中では一番冷静だ。

 みんなは覚悟を決め、階段を下りる。



       ◇



 階段を下りると、そこはいきなりデカいドアになっていた。高さ20メートルは有ろうかという巨大な扉。青くきれいな金属っぽい素材でできており、金の縁取りの装飾がされている。



「ボス部屋だ……どうしよう……」

 エドガーは頭を抱えた。

 ボス部屋は強力な敵が出て、倒さないと二度と出られない。その代わり、倒せば一般には出口へのポータルが出る。つまり一度入ったら地上に生還か全滅かの二択なのだ。

 しかし、さっきサイクロプスを見てしまったメンバーは到底入る気にはならない。あのサイクロプスよりもはるかに強い魔物が出てくるわけだから、どう考えても勝ち目などない。

「戻りましょう」

 ドロテは淡々と言う。

 しかし、俺としてはまた上への階段を探し、案内し、を繰り返さねばならないというのは避けたい。とっととボスを倒して帰りたいのだ。

 そこで、俺は明るい調子でにこやかに言った。

「大丈夫です。私、アーティファクト持ってますから、ボスを一発で倒します」

「おいおい! そう簡単に言うなよ、命かかってるんだぞ!」

 ジャックは絡んでくる。

「大丈夫です。サイクロプスだって一発だったんですよ?」

 俺はにっこりと笑って言う。

「いや、そうだけどよぉ……」



 エドガーは覚悟を決め、

「そうだな……、ユータが居なければさっきのサイクロプスで殺されていたんだ。ここはユータに任せよう。どうかな?」

 そう言って、みんなを見回す。

 みんなは暗い顔をしながらゆっくりとうなずいた。











1-18. 恐るべき魔物、ダンジョンボス



「じゃぁ行きましょう!」

 俺は一人だけ元気よくこぶしを振りあげてそう叫ぶと、景気よくバーンと扉を開いた。



 扉の中は薄暗い石造りのホールになっていた。壁の周りにはいくつもの魔物をかたどった石像があり、それぞれにランプがつけられ、不気味な雰囲気だ。

 皆、恐る恐る俺について入ってくる。



 全員が入ったところで自動的にギギギーッと扉が閉まる。

 もう逃げられない。



 すると、奥の玉座の様な豪奢な椅子の周りのランプが、バババッと一斉に点灯し、玉座を照らした。

 何者かが座っている。



「グフフフ……。いらっしゃーい」

 不気味な声がホール全体に響く。



「ま、魔物がしゃべってるわ!」

 エレミーがビビって俺の腕にしがみついてきた。彼女の甘い香りと豊満な胸にちょっとドギマギさせられる。



「しゃべる魔物!? 上級魔族だ! 勇者じゃないと倒せないぞ!」

 エドガーは絶望をあらわにする。



「ガハハハハハ!」

 不気味な笑い声がしてホール全体が大きく振動した。

「キャ――――!!」

 エレミーが耳元で叫ぶ。俺は耳がキーンとしてクラクラした。



 ドロテは、

「この魔力……信じられない……もうダメだわ……」

 そう言って顔面蒼白になり、ペタンと座り込んでしまう。



 皆、戦意を喪失し、ただただ、魔物の恐怖に飲まれてしまった。

 俺からしたらただの茶番にしか見えないのだが。



 でも、この声……どこかで聞いたことがある。

 おれは薄暗がりの中で玉座の魔物をジッと見た。



「あれ? お前何やってんだ?」

 なんと、そこにいたのはアバドンだった。



「え? あ? だ、旦那様!」

 アバドンは俺を見つけると驚いて玉座を飛び降りた。



「早く言ってくださいよ~」

 アバドンは嬉しそうに、俺に駆け寄ってきた。



「なにこれ?」

 俺がいぶかしそうに眉をひそめて聞くと、



「いや、ちょっと、お仕事しないとワタクシも食べていけないもので……」

 恥ずかしそうに、何だか生臭いことを言う。



「あ、これ、アルバイトなの?」

「そうなんですよ、ここはダンジョンの80階、いいお金になるんです!」

 アバドンは嬉しそうに言う。

「まぁ、悪さしてる訳じゃないからいいけど、なんだか不思議なビジネスだね」

「その辺はまた今度ゆっくりご説明いたします。旦那様とは戦えませんのでどうぞ、お通りください」

 そう言って、奥のドアを手のひらで示した。するとギギギーッとドアが開く。



「え? これはどういうこと?」

 エレミーが唖然(あぜん)とした表情で聞いてくる。

「この魔人は俺の知り合いなんだよ」

「し、知り合い~!?」

 目を真ん丸にするエレミー。



「はい、旦那様にはお世話になってます」

 ニコニコしながら揉み手をするアバドン。



 パーティメンバーは、一体どういうことか良く分からずお互いの顔を見合わせる。

「通してくれるって言うから帰りましょう。無事帰還できてよかったじゃないですか」

 俺はそう言ってニッコリと笑った。



 ドアの向こうの床には青白く輝く魔法陣が描かれ、ゆっくりと回っている。これがポータルという奴らしい。

「さぁ、帰りましょう!」

 俺はそう言いながら魔法陣の上に飛び乗った。



 ピュン!



 不思議な効果音が鳴り、俺はまぶしい光に目がチカチカして思わず目をつぶった。

 にぎやかな若者たちの声が聞こえ、風が(ほお)をなでる……。

 ゆっくり目を開けると……澄みとおる青い空、燦燦(さんさん)と日の光を浴びる屋台、そして冒険者たち。

 そこは洞窟の入り口だったのだ。



        ◇



 帰り道、皆、無言で淡々と歩いた。

 考えていることは皆同じだった――――

 ヒョロッとした未成年の武器商人が地下80階の恐るべき魔物と知り合いで、便宜を図ってくれた。そんなこと、いまだかつて聞いたことがない。あの魔物は相当強いはずだし、そもそも話す魔物なんて初めて見たのだ。話せる魔物がいるとしたら魔王とかそのクラスの話だ。と、なると、あの魔物は魔王クラスで、それがユータの知り合い……。なぜ? どう考えても理解不能だった。



 街に戻ってくると、とりあえず反省会をしようということになり、飲み屋に行った。



「無事の帰還にカンパーイ!」

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 俺たちは木製のジョッキをぶつけ合った。

 ここのエールはホップの芳醇な香りが強烈で、とても美味い。俺はゴクゴクとのど越しを楽しむ。



「で、ユータ、あの魔物は何なんだい?」

 早速エドガーが聞いてくる。



「昔、ある剣を買ったらですね、その剣についていたんですよ」

 俺は適当にフェイクを入れて話す。

「剣につく? どういうこと?」

 エレミーは怪訝(けげん)そうに俺を見る。

「魔剣って言うんですかね、偉大な剣には魔物が宿るらしいですよ」

 アルが目を輝かせて聞いてくる。

「魔剣持ってるの?」

「あー、彼が抜け出ちゃったからもう魔剣じゃないけどね」

「なんだ、つまんない」

「それは、魔物を野に放ったということじゃないか?」

 ジャックは俺をにらんで言う。

「剣から出す時に『悪さはしない』ということを約束してるので大丈夫ですよ。実際、まじめに働いてたじゃないですか」

 俺はにっこりと笑って言う。

「ダンジョンのボスがお仕事だなんて……一体何なのかしら……?」

 エレミーはため息をつきながら言う。

 それは俺も疑問だ。金塊出したり、魔物雇ったり、ダンジョンの仕組みは疑問なことが多い。

「今度彼に聞いておきますよ。それともこれから呼びましょうか?」

 俺はニヤッと笑った。

「いやいやいや!」「勘弁して!」「分かった分かった!」

 皆、必死に止める。

 あんな恐ろしげな魔物、下手したらこの街もろとも滅ぼされてしまうかもしれない、と思っているのだろう。皆が二度と会いたくないと思うのは仕方ない。俺からしたらただの奴隷なのだが。

「そうですか? まぁ、みんな無事でよかったじゃないですか」

 そう言ってエールをグッとあおった。



 みんな()に落ちない表情だったが、これ以上突っ込むとやぶ蛇になりそうだと、お互い目を見合わせて渋い表情を見せた。



「そうだ! そもそもジャックがあんな簡単なワナに引っかかるからよ!」

 エレミーがジャックにかみついた。

 ジャックはいきなり振られて慌てたが、

「すまん! あれは本当にすまんかった!」

 そう言って深々と頭を下げた。



 俺は、立ち上がり、

「終わったことは水に流しましょう! カンパーイ!」

 と、ジョッキを前に掲げた。

 エレミーはジャックをにらんでいたが……、目をつぶり、軽くうなずくとニコッと笑ってジョッキを俺のにゴツっとぶつけ、

「カンパーイ!」

 と、言った。

 そして、続くみんな。

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 皆のジョッキがぶつかるゴツゴツという音が響いた。



 俺は念願のダンジョンに行けて満足したし、結構楽しかった。

 今度また、アバドンに案内させて行ってみようかな? 俺は、日本では考えられない、楽しい異世界ライフに思わずニヤッと笑ってしまった。