きみがいる、この世界で。


「その人も、元はこちらの世界の住人でした。ある時、苦しいことが重なって、あなたと同じように命を捨てようとした。その時に世界交流を体験して、あちらの世界で大切な人と出会いました」

鈴木さんの向こうに見える空は不思議な色をしていた。紺色に染まりつつあるのに、その夜空を彩るかのようにオレンジや金色の雲が浮かんでいる。
鈴木さんはゆっくりと息を吐く。

「幸運にも、彼は彼女と再会し、彼女と結ばれました。家庭を持ち、息子も生まれた。とても幸せなはずなのに、それでも心から幸せだと思えない。ふとした瞬間に、どうしても悩んでしまう。あの時の決断は正しかったのか。自分を大切に育ててくれた両親を捨ててまで、こちらの世界へ来てよかったのか」

「……彼女と結ばれてでも、ですか」

「結ばれたから、かもしれませんね。自分も親になって、親の気持ちがわかるようになった。だから、自分も親のそばにいてあげたかった、と強く望むのかもしれません」

鈴木さんは、途方もなく、悲しい目をした。思わず「鈴木さん」と呼びかけると、彼は笑顔を取り繕った。笑顔を取り戻すまでの一瞬の、なんとも言えない表情を見て、私は気づいてしまった。

「最後に決めるのは泉本さんです。半年経って、それでもどうしてもあちらの世界へ行くと決めたのなら、またここに来てください。僕も来ますから」

鈴木さんはいつも通り人当たりの良い笑みを浮かべると「よいしょ」とおどけながら立ち上がった。


「泉本さん、生きてくださいね」


鈴木さんは背を向けると、空を見上げながらゆっくりと歩き出す。


「鈴木さん!」

大きな私の声に、鈴木さんはゆっくりと振り向く。

「教えてください。もし24年前の決断した日に戻れるとしたら、同じ決断をしますか?」