家に着いてシャワーを浴び、普段着に着替える。そろそろだろうか、と掛け時計を見た時、ちょうど玄関のチャイムがなった。モニターで来訪者を確認しなくても誰が来たのかわかっていたから、そのまま玄関へ向かい、ドアをあけた。
「どうも」
「こんばんは」
鈴木さんは、初めて会った時と同じスーツを着ていた。家の中へ招き入れると、鈴木さんはダイニングテーブルにはつかずに、立ったまま窓から外の景色を見た。
「どうでしたか、この一ヶ月間」
「言葉では言い表せないほど素敵な時間を過ごせました」
私の言葉に、鈴木さんは振り向いた。
「『生きたい』と思えましたか?」
……その質問。
違う世界に行くことに何のメリットがあるのか、と尋ねた私に、鈴木さんが言った言葉。
『生きたい、と思うかもしれませんよ』
あの時は、そんなこと思うはずはないと思っていた。だって、今すぐ消えてしまいたいほど、苦しかったのだから。
「……思えました」
目を閉じると、瞼の裏に、高橋くんの笑顔が浮かんだ。
会いたい。彼に会いたい。
この先彼に会える可能性は限りなく低いかもしれないけれど、可能性があるだけで、きっと私はこの先、”生きる”という選択をし続けるのだろう。
「それはよかった」
鈴木さんは柔らかに微笑むと「それではいきましょうか」と明るい声で終わりを告げる。
私は最後に大きく息を吸い、深く頷いた。
ありがとう、また来るから、そう心に誓って、ゆっくりと目を瞑った。



