きみがいる、この世界で。


「……だってもう会えないんだよ」

「でも連絡は取れるじゃん」

「引っ越しする前にスマートフォンは解約しちゃうんだって」

「えー、そんなあ……」

友梨ちゃんは可愛い顔を顰めた。

「それなら文通するしかないよね。今の時代らしくはないけれど」

「……それは」

難しい、というか恐らく不可能だろう。

だって私はあくまでもこの世界へ”世界交流”しにきているだけで。今住んでいる場所を伝えたところで、そして彼が手紙を書いて送ってくれたところで、その手紙を受け取るのは私の後に住む人だ。

「いや、今の自分だからいいのかも、文通も。想いが伝わるって言うか。あ、それにほら、最初だけ手紙にして、後から連絡先教えて貰えばいいじゃん。そしたら気軽に連絡取れるよ」

必死に励ましてくれる彼女に「そうかもね」と曖昧に頷く。

「……友梨ちゃん」

昨日からずっと考えていたこと。

忘れないで欲しい。覚えていて欲しい。その気持ちが届くかはわからないけれど、この世界でこの先、生き続ける高橋くんに、何かを残したい。

「お願いがあるんだけど」

「何?」

私のために悩んでくれている彼女と視線を合わせる。

「今週、都合が良い日だけでいいからピアノを貸してくれないかな」

「ピアノ?」

かすかに首を傾げた彼女に、深く頷く。

「どうしても練習したい曲があるの」