きみがいる、この世界で。


それから私たちはまたウインドーショッピングをして、空が紅掛空色になった時、商業施設を出た。商業施設の周りではイルミネーションが点灯し始めている。

【夏なのにイルミネーションがあるんだね】

【確かに。イルミネーションといえばクリスマスだよね】

駅まで続くイルミネーションを見ながらゆっくり歩く。
駅が見えてきた時、高橋くんは足を止めた。

「どうしたの?」

高橋くんは私を見て、ふにゃりと笑った。その笑顔は困ったような、寂しさを堪えているような、なんともいえない笑顔だった。

【こっちで過ごす最後の休日、泉本さんと一緒に過ごせて本当によかった。ありがとう、今日一緒にいてくれて】

【最後……?】

心臓がドクン、と大きな音を立てた。嫌な予感、というか、続きを聞きたくない気がした。

【うん。俺、次の金曜日で引っ越すんだ】

【そんな……】

「ここも、聾学校に入るまでの繋ぎらしいよ。だから1ヶ月しかいないんだって」

突然、高橋くんのことを友梨ちゃんたちに尋ねた日の言葉を思い出す。教えてくれたのは友梨ちゃんだったか、それとも奈々ちゃんか加菜ちゃんか。

【確か聾学校へ転校するんだよね? どこの聾学校に行くの?】

ここから遠くない場所であって欲しい。
私だってこの世界にいられる期間は決まっていて、その先のことはまだわからないけれど、せめてこの世界にいる最後の最後までは高橋くんに会いたい。

でも高橋くんから出てきた言葉は、私の願いからはかけ離れたものだった。

【ううん。俺もお父さんたちが住む外国へ行くことに決めたんだ】

そんな……外国だなんて……。
それならば彼と会えるのは後5日しかないということ?

急に目の奥が痛くなった。俯くと同時に、涙が溢れ出る。

目の前で高橋くんが困惑しているのがわかったけれど、どうしようもできない。堰を切ったように涙が出てくる。

そもそも私がこの世界に確実にいられるのも一ヶ月で、その先はどうなるかはわからなかった。
元から限られた期間しか関われないかもしれないことはわかっていた。

それなのに改めてその現実を認識したからか、別れが思っていたよりもずっと急だったからか、どうしようもなく苦しい。心臓を大きな手で握りつぶされたかのように、息ができない。

【寂しい】

本音がこぼれ落ちる。

【俺もだよ】

【どうしても来週の金曜日に引っ越すの?】

【うん】

頬を伝う涙を拭ってから大きく深呼吸をする。

これだけは言わないといけないと思った。
ずっと押し殺してきた言葉。自分の心の奥底に沈めてきた言葉。