「はー、今日に限ってノート提出させる先生、多いな」
昨日から降り続けている雨を横目で見ながら、日直の責務として職員室までノートを運ぶ。この学校では席順で二人ずつ日直をすることになっているらしく、私にとっては初めての日直が回ってきた。一緒に日直となった前の席の阿部くんは、私の倍以上の量を軽々と運びながらため息をついた。
「休み時間は寝たいんだけどな」
「……ごめんね、ノート運びを手伝ってもらっちゃって」
「どうして泉本が謝るんだよ。俺だって日直なんだから」
変なの、と阿部くんは苦笑する。
無事ノートを運び終えて職員室を出ようとした時、私たちの姿を見つけた担任の先生に呼び止められる。
「ごめんだけど、この課題ノート、教室に運んでおいて」
「わかりました」と答えた私とは反対に、阿部くんは黙ったままノートの束を手に取る。先生はそんな阿部くんの態度になれているのか、何かいうこともなく「ありがとう」とにこやかに笑った。
「阿部くん、半分持つよ」
「いいよ、大して重くもないし」
軽やかに歩く阿部くんに続いて教室を目指す。ほぼ毎日朝練と放課後練があり、部活がかなり忙しいらしい阿部くんは、教室で過ごす休み時間は寝ていることが多い。だから正直に言うと、これほど日直の仕事をしてくれるのは意外だった。こんな失礼なこと、絶対本人には言えないけれど。
教室に入ると、また友梨ちゃんと高橋くんは話していた。友梨ちゃんは私の姿を見てニコッと笑い、手を上げようとしたのが見える。でも私は反射的に視線を逸らしてしまった。
一気に疲れが押し寄せてきた。椅子に座って深くため息をつく。さりげなく彼女たちの方を見ると、ちょうど友梨ちゃんが教室を出ていくところだった。
「あの、阿部くん」
控えめな声で呼びかける。もしかしたら聞こえなかったかもしれない。そうだったら呼びかけたことは無しにしよう。心の中で勝手に誓いを固めた時、「なに」とお世辞にも愛想が良いとは言えない声が返ってきた。



