最後の一文を送り終えると、肺の中にあった空気を全て吐き出した。
私が送った長文を読み終えた高橋くんが顔をあげる。私よりもずっと辛い思いをしてきたはずなのに、彼の目には涙がうっすら浮かんでいた。
【私もね、前の学校ではずっと一人ぼっちだと感じていた。同じ”孤独”でも、私が経験した”孤独”と、高橋くんが経験してきた”孤独”はきっと全く違うと思う。でも、他の人よりは”孤独”の辛さとか寂しさを知っているつもりだよ。だからね、高橋くんも、一人でいるのが辛い時はいつでも連絡してね。私、そばにいるから】
『役に立つかわからないけれど、苦しい時はいつでも連絡して。一人でいるのが辛かったら、一緒にいるから』
苦しみもがいていた私に言ってくれたように、私も高橋くんが”孤独”を感じた時、そばにいたい。たとえそれが1ヶ月間と期間が限られていたとしても、そばにいて少しでも彼が抱える”孤独”を減らすことができるのなら、そばにいたい。
【高橋くん】
伝えないといけないことがある。
【私、その経験があって、もうピアノは弾きたくないと思った。誰かに自分の演奏を聴かれるのは嫌だと思った。いつしか、ピアノの音を聞くだけで耳を塞ぎたくなった。でもね】
今になって気づく。きっと初めて会った時から、高橋くんは、高橋くんの演奏は、私にとって”特別”だった。
【高橋くんのピアノを初めて聴いた時、『もっと聞きたい』と思った。私の好きなものを、嫌いにさせないでくれてありがとう。私、またピアノ弾きたいって思えたよ】
私が送った文面を、読み切るには十分ほどじっくり見つめてから高橋くんは指を動かした。なんともいえない表情で。
【泉本さん、やっぱりピアノ弾くんだ】
高橋くんはスマートフォンから視線をあげると、しばしの間宙を見上げた。
【初めて会った時から、そんな感じがしてた。レッスン、受けていたの?】
【うん……でも週に一回だけだったし、本格的にやっていたわけじゃないよ】
本格的なコンクールに出場したことはないし、趣味でやっていただけだった。ただ、ピアノは好きだった。一つ一つ何気なく生まれた音がまとまり、一つの曲となる。そしてその曲は、奏者にも聴者にもさまざまな感情を与えてくれたり、時には新しい世界を見せてくれたりする。それが不思議で、楽しかった。
【どんな曲を弾くの?】
【色々な曲を弾くよ。邦楽も洋楽もクラシックも。強いて言えばクラシックを弾くことが多いかな。ノクターンの第二番が好きなんだ】
【ノクターン、良いよね。弾く人によって演奏がガラッと変わるから面白いよね】
高橋くんは私を見つめると、口元に手を当てて首をかすかに傾げた。
何も言わない彼が気になって、私も彼と同じように首を傾けると、高橋くんはハッと笑顔を取り繕った。
【泉本さんのノクターン、聞いてみたかったな……】
その文面を見た時、今までで感じたことがないくらい、胸が締め付けられた。
【耳が聞こえる間に、泉本さんに会いたかったな。泉本さんのピアノ、聞いてみたかった】
何も言えずにただ俯いていると、高橋くんは【なんだか変なこと言っちゃった。ごめんね】と眉尻をさげながら笑った。
それから彼は何事もなかったかのように、私が作った卵雑炊を勢いよく食べた。既に冷めきっていて、美味しくないはずなのに、何度も【美味しい、ありがとう】と言ってくれた。
私が送った長文を読み終えた高橋くんが顔をあげる。私よりもずっと辛い思いをしてきたはずなのに、彼の目には涙がうっすら浮かんでいた。
【私もね、前の学校ではずっと一人ぼっちだと感じていた。同じ”孤独”でも、私が経験した”孤独”と、高橋くんが経験してきた”孤独”はきっと全く違うと思う。でも、他の人よりは”孤独”の辛さとか寂しさを知っているつもりだよ。だからね、高橋くんも、一人でいるのが辛い時はいつでも連絡してね。私、そばにいるから】
『役に立つかわからないけれど、苦しい時はいつでも連絡して。一人でいるのが辛かったら、一緒にいるから』
苦しみもがいていた私に言ってくれたように、私も高橋くんが”孤独”を感じた時、そばにいたい。たとえそれが1ヶ月間と期間が限られていたとしても、そばにいて少しでも彼が抱える”孤独”を減らすことができるのなら、そばにいたい。
【高橋くん】
伝えないといけないことがある。
【私、その経験があって、もうピアノは弾きたくないと思った。誰かに自分の演奏を聴かれるのは嫌だと思った。いつしか、ピアノの音を聞くだけで耳を塞ぎたくなった。でもね】
今になって気づく。きっと初めて会った時から、高橋くんは、高橋くんの演奏は、私にとって”特別”だった。
【高橋くんのピアノを初めて聴いた時、『もっと聞きたい』と思った。私の好きなものを、嫌いにさせないでくれてありがとう。私、またピアノ弾きたいって思えたよ】
私が送った文面を、読み切るには十分ほどじっくり見つめてから高橋くんは指を動かした。なんともいえない表情で。
【泉本さん、やっぱりピアノ弾くんだ】
高橋くんはスマートフォンから視線をあげると、しばしの間宙を見上げた。
【初めて会った時から、そんな感じがしてた。レッスン、受けていたの?】
【うん……でも週に一回だけだったし、本格的にやっていたわけじゃないよ】
本格的なコンクールに出場したことはないし、趣味でやっていただけだった。ただ、ピアノは好きだった。一つ一つ何気なく生まれた音がまとまり、一つの曲となる。そしてその曲は、奏者にも聴者にもさまざまな感情を与えてくれたり、時には新しい世界を見せてくれたりする。それが不思議で、楽しかった。
【どんな曲を弾くの?】
【色々な曲を弾くよ。邦楽も洋楽もクラシックも。強いて言えばクラシックを弾くことが多いかな。ノクターンの第二番が好きなんだ】
【ノクターン、良いよね。弾く人によって演奏がガラッと変わるから面白いよね】
高橋くんは私を見つめると、口元に手を当てて首をかすかに傾げた。
何も言わない彼が気になって、私も彼と同じように首を傾けると、高橋くんはハッと笑顔を取り繕った。
【泉本さんのノクターン、聞いてみたかったな……】
その文面を見た時、今までで感じたことがないくらい、胸が締め付けられた。
【耳が聞こえる間に、泉本さんに会いたかったな。泉本さんのピアノ、聞いてみたかった】
何も言えずにただ俯いていると、高橋くんは【なんだか変なこと言っちゃった。ごめんね】と眉尻をさげながら笑った。
それから彼は何事もなかったかのように、私が作った卵雑炊を勢いよく食べた。既に冷めきっていて、美味しくないはずなのに、何度も【美味しい、ありがとう】と言ってくれた。



