きみがいる、この世界で。

誤解を解かないといけないと思った。
誤解を解けば、親友は難しくても、友達には戻れるかもしれないと思ったし、戻りたいと思った。

ただ、その時の私は、まだ自分がどれほどひどいことをしてしまったのかに気付けていなかった。

【傷つけてごめん。陶山のこと、説明させてほしい】
【少しでも話せる時間とってもらえないかな?】

メッセージを送っても、既読の印がつくことはなかった。

直接千枝に話しかけに行ったけれど、5回無視されたところで心が折れてしまった。

どうやって謝ればいいのだろう、どうやって誤解をといたらいいのだろう、悩んでも良い案は浮かばない。千枝に謝ることができない間に、陶山は普段通り、私にたわいもない話や音楽祭の話をしに来た。

それが余計に癪に障ったんだろう。また、佳奈美の好きな人が、私の隣の席で、陶山と一緒に時々話しかけてきたことも影響したと思う。千枝と佳奈美は、クラスメートに私のことを『親友の好きな人を奪い取ろうとした』と言い始めた。そして私に直接、悪意のある言葉をぶつけるようにもなった。

仕方が無いと思った。いくら私が陶山に対して恋愛感情がなくても、陶山とは幼馴染のような関係だとしても、千枝に対して配慮のない行動をしてしまったのは私だったから。千枝と佳奈美に『嫌な奴』と言われても、クラスメートたちからひそひそと『友達の好きな人奪うとか性格悪い』と言われても、致し方ないと思った。陰口を言われるのは辛いけれど、全部自分のせいだと思えば、我慢するしかなかった。

お昼休みの直後に音楽の授業がある日、私は早めに音楽室へ行って、合唱曲の練習をしていた。自分がクラスメートの大部分に嫌われていることがわかってたからこそ、これ以上迷惑はかけたくなくて、集中して練習をしていた。ちらほらとクラスメートが集まってきて、後5分で授業が始まるという時、千枝と佳奈美が音楽室へ入ってきた。

「何あれ、超ノリノリで演奏してんじゃん(笑)」

「たいしてうまくもないのにねー?(笑)」

明らかに悪意を持った言葉が音楽室に高らかに響く。一瞬にしてざわめいていた音楽室が静かになった。

バカにするぐらいなら、伴奏者に推薦しないでほしかった。
私は幼い頃から目立つことが苦手で、本当は伴奏だってやりたくなかった。そんな私の性格を知っていたはずなのに「いいじゃん」と推薦してきたのは紛れもない千枝だった。

彼女たちの言葉に、一気に手先が冷たくなった。演奏の途中だったのに、指先が思うように動かない。

結局その日の授業はうまく演奏ができなくて、何度も合唱が中断してしまった。

「あんなに自己陶酔した演奏で下手とか、イタすぎて見てられないんですけど~」

音楽の先生が去った後、千枝が大きな声で言う。陶山は千枝を「ありえない」といった様子で見た後、陶山は千枝に「最低だな」と吐き捨てた。千枝は陶山が私を庇ったように思ったのだろうし、実際陶山は庇ってくれたのだろう。

千枝は陶山の言葉に笑顔を引き攣らせた後、私を睨みつけ、それからそそくさと音楽室から出ていった。彼女がいなくなってから、陶山はいつも通りの笑顔で「気にすんな、そもそも泉本以外ピアノを弾けるやついないんだから」と励ましてくれた。けれど、彼女の一言は、「これ以上演奏したくない」という気持ちにさせるには十分すぎた。


そして私はあの日から、ピアノを一度も弾いていない。


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