きみがいる、この世界で。

「ハーバリウムボールペンだって」

「ハーバリウム?」

なんだかおしゃれな響きだな、と戸惑い気味に呟く彼に、「いいと思うけどなあ、ここ数年で一気に人気になったし」と返す。

「数年経ったらお花が枯れちゃうかもしれないけれど、その時はまた買ってあげればいいじゃん。きっとお医者さんになってお金持ちになっているんだからさ」

「さりげなく受験のプレッシャーかけてくるのやめろよ。この前の模試、どの志望校も合格可能性20%以下で、上条から『どうしても医学部にこだわるのなら志望校考え直せ』って言われたところなんだけど」

陶山は苦笑すると「でもいいかも、毎日使えるしな」と納得してくれた。

「これ、どこで買えるんだろ。できればネットは使いたくないんだけど」

俺がいない間に母さんに開けられそうだから、との言葉に、「確かに」と同意する。
あのお母さんだ。「もう、何勝手に頼んでるの!?」と開けちゃいそう。

「駅前に大きな百貨店あるじゃん。4階だったかな、文房具屋さんがあるでしょ? あそこなら売ってると思うよ。この前千枝たちと行ったんだけど、かわいい商品が揃っていた」

「そっか。ちなみにこれ、どんな花が良いとか人気とか、あんの?」

「うーん、それは好みにも関わってくるから難しい質問だなあ。お母さんの好きなお花でいいんじゃないかな?」

「えー、それこそ難しい答えだわ……」

「まあ、きっとなんでも喜んでくれると思うよ。もらえるだけで嬉しいと思う」

「泉本、今週いつか放課後あいてない?」

「え?」

「ついてきてよ。俺、サッパリだもん、こういうの」

ええ……。それは少しマズイような……。

一瞬にして脳裏に千枝の怒った顔が浮かぶ。

「何? 忙しい?」

「いや、うーん、まあ」

「あ、面倒だって思ってるんだろ」

「違うよ、そんなことない」

「それなら頼むよ。お礼に何か奢るからさ」

本当に全くわからないんだって、と頼み込み彼に折れ、「わかったよ」と答える。
千枝のことを思うと、できるだけ二人で出かけたくはない。ただ、陶山に至っては、5年の仲だ。同級生のどの男子より付き合いが長い。何より5年間も同じクラスだと、例え些細なことだとしても、助けてもらったことがたくさんある。私が日直の時に一緒に黒板を消してくれたり、ノート返却を手伝ってくれたり、代わりにゴミ捨てをしてくれたり。