***
譜面をみながら、脳内でピアノの音を再生する。
つられるように右手が動いた時、お箸でつまんでいたミニトマトがポトッとお弁当の中に落ちていった。
「ほーら、また聞いてない」
もう一度ミニトマトをつかもうとした時、呆れた声が隣の席から聞こえる。
「もう、昼休みぐらい楽譜から離れてよ」
口を尖らせながら私を見つめる千枝に「あのねえ」と真っ直ぐの視線をむける。
「誰のせいでこんな面倒に巻き込まれたと思ってるのよ」
「さあ、誰でしょう」
私の問いかけに千枝はペロリと舌を出して、おどけてみせる。
「いいじゃん、涼音、ピアノ上手いんだから」
「私より上手い人が絶対他にいるじゃん!」
5月のゴールデンウィーク明け、4ヶ月後の9月に行われる合唱祭のために、クラス時間を活用して曲決めとパート決め、役割決めー指揮者とピアノ伴奏者ーが行われた。
「指揮者とピアノ伴奏者、立候補する人はいませんか?」
合唱祭委員会のクラス代表であり、議論の進行役をしていた中野さんが何度か尋ねても、例年通り一向に誰の手も挙がらない。
なかなか議論が進まないことに担任の上条先生は焦りを感じたのか、今まで教室の端っこで黙々と何か作業をしていたのに、
「おい、この時間で決めてくれよ」
急に眉間に皺を寄せて、いつもより少し低めの声と鋭い目つきーこの目つきはかなり不機嫌の時のサインー教室を見渡した。
ざわざわしていた教室に一瞬だけ静けさが訪れた後、クラスで一番のお調子者の安本が「指揮者は今年も陶山でいいんじゃねーの」と発した。
「はあ!?」
いきなり名前を出された陶山は勢いよく立ち上がり「いやいや、無理無理」と慌てて否定したが、クラス中から「いいじゃん」「そういえば去年、陶山のクラス優勝したよね」と肯定する声が上がり始める。
「俺より合唱部の奴らとかの方がいいんじゃないの?」
陶山は教室中を見渡す。
「合唱部だからって指揮ができるわけないよ?」
合唱部に所属している女子生徒の一人が、陶山に向かって言うと、それを合図にしたように、
「そうそう、私たちは歌う担当だから」
「指揮者は顧問の先生がいつもやってくれるもんね~」
安本と一緒に陶山を指揮者に推している男子が「ほら、もう陶山でいいじゃん。お前の指揮は優勝に導いたんだぜ?」と大きな声で言うと、「もう陶山で決定だよね」「陶山以外考えられないよ」と、みんなが彼を煽てる。陶山はその声に天を仰ぎながら「もうわかったよ」と投げやり気味に自分の役割を受け入れた。
「それなら、指揮者は陶山で」
中野さんが黒板に彼の名前を書くと、自然と拍手が沸き起こる。
「陶山、かわいそ」
彼をみながらぽつりと呟いた私の言葉は、拍手の音でかき消された。
「次、ピアノの伴奏者、誰かピアノ弾ける人いませんか?」
中野さんがさっきよりもほんのわずかに明るめの声で教室に問いかけた時、千枝が「涼音、ピアノやってよ~」と少し離れた席から私の方をみた。
譜面をみながら、脳内でピアノの音を再生する。
つられるように右手が動いた時、お箸でつまんでいたミニトマトがポトッとお弁当の中に落ちていった。
「ほーら、また聞いてない」
もう一度ミニトマトをつかもうとした時、呆れた声が隣の席から聞こえる。
「もう、昼休みぐらい楽譜から離れてよ」
口を尖らせながら私を見つめる千枝に「あのねえ」と真っ直ぐの視線をむける。
「誰のせいでこんな面倒に巻き込まれたと思ってるのよ」
「さあ、誰でしょう」
私の問いかけに千枝はペロリと舌を出して、おどけてみせる。
「いいじゃん、涼音、ピアノ上手いんだから」
「私より上手い人が絶対他にいるじゃん!」
5月のゴールデンウィーク明け、4ヶ月後の9月に行われる合唱祭のために、クラス時間を活用して曲決めとパート決め、役割決めー指揮者とピアノ伴奏者ーが行われた。
「指揮者とピアノ伴奏者、立候補する人はいませんか?」
合唱祭委員会のクラス代表であり、議論の進行役をしていた中野さんが何度か尋ねても、例年通り一向に誰の手も挙がらない。
なかなか議論が進まないことに担任の上条先生は焦りを感じたのか、今まで教室の端っこで黙々と何か作業をしていたのに、
「おい、この時間で決めてくれよ」
急に眉間に皺を寄せて、いつもより少し低めの声と鋭い目つきーこの目つきはかなり不機嫌の時のサインー教室を見渡した。
ざわざわしていた教室に一瞬だけ静けさが訪れた後、クラスで一番のお調子者の安本が「指揮者は今年も陶山でいいんじゃねーの」と発した。
「はあ!?」
いきなり名前を出された陶山は勢いよく立ち上がり「いやいや、無理無理」と慌てて否定したが、クラス中から「いいじゃん」「そういえば去年、陶山のクラス優勝したよね」と肯定する声が上がり始める。
「俺より合唱部の奴らとかの方がいいんじゃないの?」
陶山は教室中を見渡す。
「合唱部だからって指揮ができるわけないよ?」
合唱部に所属している女子生徒の一人が、陶山に向かって言うと、それを合図にしたように、
「そうそう、私たちは歌う担当だから」
「指揮者は顧問の先生がいつもやってくれるもんね~」
安本と一緒に陶山を指揮者に推している男子が「ほら、もう陶山でいいじゃん。お前の指揮は優勝に導いたんだぜ?」と大きな声で言うと、「もう陶山で決定だよね」「陶山以外考えられないよ」と、みんなが彼を煽てる。陶山はその声に天を仰ぎながら「もうわかったよ」と投げやり気味に自分の役割を受け入れた。
「それなら、指揮者は陶山で」
中野さんが黒板に彼の名前を書くと、自然と拍手が沸き起こる。
「陶山、かわいそ」
彼をみながらぽつりと呟いた私の言葉は、拍手の音でかき消された。
「次、ピアノの伴奏者、誰かピアノ弾ける人いませんか?」
中野さんがさっきよりもほんのわずかに明るめの声で教室に問いかけた時、千枝が「涼音、ピアノやってよ~」と少し離れた席から私の方をみた。



