きみがいる、この世界で。

スーパーに行ったついでに買ってきた風邪薬と一緒にお盆に乗せ、寝室へ運ぶ。

……寝ているかな。寝ているのなら起こさない方がいいのかな。

ゆっくりと寝室のドアをあけると、荒い息遣いが耳に入る。慌ててかけよると、高橋くんの目からは涙がこぼれ落ちている。

「高橋くん!!」

慌ててお盆を置き、肩を揺する。

数回揺らすと高橋くんはゆっくりと目をあけた。

「大丈夫?」

ぼんやりと空を見る高橋くんの頬には、また一筋の涙が伝う。

「嫌な夢でも見た?」

高橋くんはやっと私の方を見ると、かすかに目を見開いて、それから大きく息を吐いた。

「……大丈夫?」

高橋くんはベッドサイドのテーブルに置かれていたスマートホンを取ると、文字を打ち込む。きっと私にあてたものだろう。キッチンカウンターに置いたままだったスマートフォンを取りに行った時、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで届く。

【忘れたいのに忘れられない過去があるのは、辛いね……】

メッセージを読んだ瞬間、ぎゅっと心臓を強く掴まれたような気がした。

『忘れられたいのに忘れられないのって苦しいよね。その苦しみは俺なりに知っているつもりだから』

自己嫌悪に陥っていた私を受け止めてくれた時、高橋くんはどんな気持ちだったんだろう。
彼にどんな過去があっだんだろう。どんな過去が彼にああ言わせたんだろう。

【今、その夢を見ていたの?】

寝室は暗くて、ここから彼の表情を読み取ることはできない。さっきと同じようにゆっくりと寝室に入ると、暗闇の中で、高橋くんは目を真っ赤にしながらゆっくりと頷いた。