いつか乗り越えられるのだろうか、親友からひどい言葉を投げかけられた過去を。
友梨ちゃんは私に優しくしてくれた。ひとりぼっちで過ごすことを想定した中で、すぐに話しかけてくれた。そんな思いやりのある彼女には、優しさだけで接したいのに、どうしても乗り越えられない過去が邪魔をする。
鼻の奥がツンとした。鼻を啜りながら下を向いた時、手で持っていたスマートフォンにメッセージが表示された。
【無責任なことは言えないけれど、きっと大丈夫だよ】
”大丈夫”
何の確証も無い言葉なのに、その文字を見た瞬間、胸がいっぱいになった。
【俺に初めて話しかけてくれた日、俺は逃げてしまったのに、泉本さんは怒るどころかまた話かけにきてくれたよね。俺、あの時、泉本さんのこと、本当に優しいんだなって思った。その傷つけてしまったかもしれない人も、泉本さんが親切で優しいことを知っていると思うよ。だからその人も、泉本さんに親切にしてくれるんだと思う】
じわじわと目の奥が熱くなる。
元いた世界で身近にいる人から傷つけられたのは、私が”嫌な奴”だからだ、と思っていた。
嫌な言葉を投げつけられるのは、私には”嫌なところ”しかないからだ、と。
でも、自分のことを”優しい”と思ってくれている人がいた。自分は生きていてもいいのだと思えた。
【高橋くんは、忘れたい過去はある? 忘れたいのに忘れられない過去ってある?】
【あるよ】
あまりにも即答するものだったから、質問をした私が驚いてしまった。
【消えたいと思うほど辛かったことがある。その時は実際、消えようとした】
”消えようとした”
それが何を意味しているのかがわかった。おずおずと彼に視線を移す。
【どうやって立ち直ったの?】
【その時、】
文章の途中で、高橋くんはふっと、顔をあげた。遠くを見つめて、懐かしいような、戸惑いのような、なんとも言えない表情をした。
【その時、ちょうど転校の話が出た。環境が変わって辛かったことから物理的に離れられるから、もう一度だけ頑張ってみようかな、って】
高橋くん驚くほど大人びた笑みを浮かべて、何かを見透かすかのように、真っ直ぐ私の目の奥を見つめた。
【忘れられたいのに忘れられないのって苦しいよね。その苦しみは俺なりに知っているつもりだから。だから、役に立つかわからないけれど、苦しい時はいつでも連絡して。一人でいるのが辛かったら、一緒にいるから】
「でも……」
首を傾げて続きを促してくれた彼に、弱々しく首を振る。
高橋くん、1ヶ月後には、私のことを忘れてしまうじゃんか。
もう一緒にはいられないじゃんか。
私はあの世界に戻って、また一人ぼっちだ。
高橋くんがいないあの世界で、また一人ぼっちだ。
堪えていた涙が、咳を切ったように流れ出た。
【泣かないで。大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫だから】
一緒にいたい。一緒にいてほしい。でも一緒にいられない。
寂しい。
高橋くんがいないことを考えるだけで心が張り裂けそうになるほど、悲しい。
高橋くんは小さい子を慰めるように、私の頭をゆっくりと撫でる。その手は暖かくて、余計に涙が溢れ出た。



