きみがいる、この世界で。


いつもより丁寧に髪の毛をとかして、予定通りの時間に家を出る。”世界が違う”といっても、正直、元いる世界とは大きく変わらなかった。電車はあるし、電車に乗るには切符か交通系ICカードが必要だ。券売機は、自分で金額を調べなくても、目的地を打てば機械が計算してくれるところが、元の世界よりも少しだけ便利だ。

迷うことを想定して家を出たから、待ち合わせの場所には十五分以上早く着いた。

どこで待とうかな。
どこで待てば気づいてもらえるかな。

グルッと辺りを見回すと、色素の薄い茶色の癖毛の男子が俯き加減でスマートフォンを操作していた。

高橋くん、もう来てたんだ。

驚かせないようにゆっくりと近づいて顔を覗き込むと、高橋くんはパッと顔をあげて、はにかんでみせた。

「おはよう」

声で伝えた私に、高橋くんは口の形で「おはよう」と伝えてくれた。

【今日、来てくれてありがとう。せっかくの土曜日なのに早起きさせちゃってごめんね】

【ううん、誘ってくれてありがとう】

【今日、楽しみにしてた】、付け加えられたメッセージに、じんわりと胸が温かくなる。

【私も】と返すと、高橋くんはまた、控えめに笑った。



向日葵畑は、想像以上に綺麗で見応えがあった。畑の入り口では、真っ黄色で満開の向日葵が私たちを出迎えてくれた。

「わあ……綺麗……!」

空の青さとのコントラストで、黄色がより華やかに見える。今までまじまじと向日葵を見たことなかったけれど、向日葵ってこんなに可愛くて綺麗なんだ。

順路に沿って進むと、ハスやダリアといった夏を代表する花々が向日葵と共演していた。入り口からパシャパシャと写真を撮っていた私に少し呆れ気味だったくせに、最後の青色の朝顔と向日葵の畑では「コントラストが綺麗」と感激して、次は私が苦笑してしまうぐらい高橋くんが写真を撮りまくっていた。