きみがいる、この世界で。

高橋くんが自販機で買って来てくれたお水を飲み、やっと落ち着くと、私たちは新たに連絡先を交換した。

【それで……ここにいるということは、この学校に通っていたの?】

私が在校生となって4ヶ月。4ヶ月もあれば、クラスが違うといえど、廊下などですれ違いそうなものだ。

【ううん、実は3学期から転入するんだ。今までは聾学校に通ってた】

【そうなんだったんだ……。どうして転校することにしたの?】

【音がたくさんある生活も悪くないかな、って。あちらの世界で、泉本さんや石川さんがたくさん話しかけてくれて、やっと深い海の底から陸に上がれたような気がした。だからこれからもそんな生活ができたらいいな、って】

あちらの世界で、彼がいる”音のない世界”はどんな世界なのかを尋ねた時。【深い海の底にいる感じかな】と答えたことは思い出した。

【でも実は俺、もう少ししたらあちらの世界へ行くつもりだったんだよ。泉本さんに会いに】

【私に?】

【うん。前、約束したでしょ。”泉本さんが辛い時は一緒にいる”って。泉本さんが頼ってくれるかはわからないけれど、泉本さんが頼りたいと思った時に、そばにいたかったから】

【でも、】と彼は続ける。

【またあえてよかった。向こうの世界に戻っても、また泉本さんと会える保証はなかったから。だからあえて本当によかった】

音楽室に差し込んだ夕陽の光が、私たちを照らす。あまりの綺麗さに目を細めていると、

「泉本さん」

オレンジ色に照らされた彼が、私の名前を呼ぶ。彼はとても真剣な目で私を見つめた。

「俺と、付き合ってくれませんか」