どうしたらいいのだろう、本当はどうしたいのだろう。
悩みながらも、期末試験や外部模試試験、日々の宿題に追われていると、あっという間に12月下旬になって、気づけば今日はクリスマスイブだ。
「ただいま〜」
玄関をあけると、ふわりと揚げ物の良い香りがして、お腹がキュルルと鳴った。
「おかえり。ケーキ、受け取ってきてくれた?」
エプロンをつけて出迎えてくれたお母さんは、きっと唐揚げを揚げている途中なんだろう、右手に菜箸を持っていた。
「うん、ちゃんともらってきたよ。ケーキ屋さん、すごく混んでた」
「そうでしょうね。寒かったでしょう、ありがとうね」
「ううん、帰り道の途中だから」
得意気に、右手で持っているケーキの箱をお母さんの前で掲げる。
中には、私がリクエストをした、砂糖菓子で作られたサンタさんとトナカイが乗ったホールケーキが入っている。
「ありがとう」と言いながら差し出されたお母さんの左手に、ケーキボックスを渡す。
「もうすぐ夜ご飯の準備も終わるから、それまでに着替えておいで」
「わかった」
出張帰りでいつもよりずっと早くに帰ってきたお父さんに「ただいま」と挨拶をして、自分の部屋へ行く。部屋着に着替えてリビングへ戻ると、毎年恒例の、我が家のクリスマスメニューが机の上に並んでいた。
三人揃って「いただきます」と手を合わせて、お母さんが準備してくれた食事に箸を伸ばす。いつもは私やお母さんの話を聞くことが多いお父さんの、今回の出張先で出会った、ちょっと変わった取引先の人の話に、私とお母さんは息をするのが苦しくなるほどたくさん笑った。ケーキを食べる時もその人の話は続いて、あっという間にクリスマスイブの食事は終わった。
「ごちそうさまでした」
ケーキと一緒に出してもらった紅茶を飲み干し、手を合わせる。お母さんは「はーい」といいながら3人分のカップを台所へ運ぶ。リビングに戻ってきた時には、カップの代わりに綺麗にラッピングされた小さな箱を持っていた。お母さんはその箱を、そっと私の目の前に置いた。
「? なにこれ?」
視線をあげてお母さんとお父さんを交互に見る。「開けてみて」というお母さんの促しに、お父さんもにこやかに頷いたから、きっとお父さんも箱の中身を知っているのだろう。
きっちりと結ばれた、ブラックの布の上にブランド名が描かれたリボンを解く。高級感漂う、しっかりとした黒色の箱をあけると、中にはジュエリーボックスが入っていた。箱と同じ色のジュエリーボックスをゆっくりと開けると、中には、ピンクゴールドのラインストーンリングが入っている。
「可愛い……!」
「気に入ってくれた?」
「もちろん……。これ……もらっていいの?」
視線をリングから両親に移す。
お父さんは私の言葉に、「お父さんとお母さんからのクリスマスプレゼントだ」と笑顔で教えてくれた。
「ありがとう……! すごく嬉しい!!」
「今の涼音には少し大人っぽすぎるデザインかなと思ったんだけど……ベーシックなデザインだから、ずっと使えるかなって思って。次の誕生日で成人を迎えるし、ずっと大切に使い続けてくれたら嬉しいな」
お母さんはいつの日かと同じように、底なしの包容力を持った声で、私の名前を優しく呼んだ。
「今年はあなたにとって、辛いことがたくさんあったでしょう。だからね、来年は、今年よりもずっとずっと幸せになりなさい。これは親からの命令よ」
「お母さん……」
鼻の奥がツンとした。
今年はしんどい一年だった。でもきっと、それはお母さんやお父さんも同じだっただろう。
娘が学校でいじめに遭い、転校することになった。私の前では何でもないふうに、明るくいつも通り振る舞ってくれていたけれど、本当は二人だって私に隠していた思いや気持ちはあっただろう。きっと私が想像する以上に、私のことを心配して、そして幸せになってほしい、笑顔でいてほしいと、願ってくれていたのだろう。だから小学校低学年ぶりに、クリスマスプレゼントを用意してくれたはずだ。
「ありがとう……お父さん、お母さん」
「うん。さあ、はめてみて。きっと似合うはずよ」
少し湿っぽくなった雰囲気を追い払うように、お母さんはスマートフォンのカメラを私にむける。「恥ずかしいよ」と言いながら右手の中指にはめると、二人は大袈裟なほど「似合う似合う」と褒めてくれた。それが嬉しくて、少しくすぐったくて、でもやっぱりとても幸せだった。
両親からのプレゼントは嬉しくて、その日はリングをはめたままベッドに入った。両親の気持ちが形になったリングをはめると、「今よりももっと幸せになって」と、そっと背中を押してもらえた気がした。
この決断が正しいのかどうかはわからないけれど、
大切に育ててもらったから、
たくさん愛情を注いでもらったから、
だから、私は、いつでも胸を張って「幸せだよ」と笑いたい。
笑わなくちゃいけない。
悩みながらも、期末試験や外部模試試験、日々の宿題に追われていると、あっという間に12月下旬になって、気づけば今日はクリスマスイブだ。
「ただいま〜」
玄関をあけると、ふわりと揚げ物の良い香りがして、お腹がキュルルと鳴った。
「おかえり。ケーキ、受け取ってきてくれた?」
エプロンをつけて出迎えてくれたお母さんは、きっと唐揚げを揚げている途中なんだろう、右手に菜箸を持っていた。
「うん、ちゃんともらってきたよ。ケーキ屋さん、すごく混んでた」
「そうでしょうね。寒かったでしょう、ありがとうね」
「ううん、帰り道の途中だから」
得意気に、右手で持っているケーキの箱をお母さんの前で掲げる。
中には、私がリクエストをした、砂糖菓子で作られたサンタさんとトナカイが乗ったホールケーキが入っている。
「ありがとう」と言いながら差し出されたお母さんの左手に、ケーキボックスを渡す。
「もうすぐ夜ご飯の準備も終わるから、それまでに着替えておいで」
「わかった」
出張帰りでいつもよりずっと早くに帰ってきたお父さんに「ただいま」と挨拶をして、自分の部屋へ行く。部屋着に着替えてリビングへ戻ると、毎年恒例の、我が家のクリスマスメニューが机の上に並んでいた。
三人揃って「いただきます」と手を合わせて、お母さんが準備してくれた食事に箸を伸ばす。いつもは私やお母さんの話を聞くことが多いお父さんの、今回の出張先で出会った、ちょっと変わった取引先の人の話に、私とお母さんは息をするのが苦しくなるほどたくさん笑った。ケーキを食べる時もその人の話は続いて、あっという間にクリスマスイブの食事は終わった。
「ごちそうさまでした」
ケーキと一緒に出してもらった紅茶を飲み干し、手を合わせる。お母さんは「はーい」といいながら3人分のカップを台所へ運ぶ。リビングに戻ってきた時には、カップの代わりに綺麗にラッピングされた小さな箱を持っていた。お母さんはその箱を、そっと私の目の前に置いた。
「? なにこれ?」
視線をあげてお母さんとお父さんを交互に見る。「開けてみて」というお母さんの促しに、お父さんもにこやかに頷いたから、きっとお父さんも箱の中身を知っているのだろう。
きっちりと結ばれた、ブラックの布の上にブランド名が描かれたリボンを解く。高級感漂う、しっかりとした黒色の箱をあけると、中にはジュエリーボックスが入っていた。箱と同じ色のジュエリーボックスをゆっくりと開けると、中には、ピンクゴールドのラインストーンリングが入っている。
「可愛い……!」
「気に入ってくれた?」
「もちろん……。これ……もらっていいの?」
視線をリングから両親に移す。
お父さんは私の言葉に、「お父さんとお母さんからのクリスマスプレゼントだ」と笑顔で教えてくれた。
「ありがとう……! すごく嬉しい!!」
「今の涼音には少し大人っぽすぎるデザインかなと思ったんだけど……ベーシックなデザインだから、ずっと使えるかなって思って。次の誕生日で成人を迎えるし、ずっと大切に使い続けてくれたら嬉しいな」
お母さんはいつの日かと同じように、底なしの包容力を持った声で、私の名前を優しく呼んだ。
「今年はあなたにとって、辛いことがたくさんあったでしょう。だからね、来年は、今年よりもずっとずっと幸せになりなさい。これは親からの命令よ」
「お母さん……」
鼻の奥がツンとした。
今年はしんどい一年だった。でもきっと、それはお母さんやお父さんも同じだっただろう。
娘が学校でいじめに遭い、転校することになった。私の前では何でもないふうに、明るくいつも通り振る舞ってくれていたけれど、本当は二人だって私に隠していた思いや気持ちはあっただろう。きっと私が想像する以上に、私のことを心配して、そして幸せになってほしい、笑顔でいてほしいと、願ってくれていたのだろう。だから小学校低学年ぶりに、クリスマスプレゼントを用意してくれたはずだ。
「ありがとう……お父さん、お母さん」
「うん。さあ、はめてみて。きっと似合うはずよ」
少し湿っぽくなった雰囲気を追い払うように、お母さんはスマートフォンのカメラを私にむける。「恥ずかしいよ」と言いながら右手の中指にはめると、二人は大袈裟なほど「似合う似合う」と褒めてくれた。それが嬉しくて、少しくすぐったくて、でもやっぱりとても幸せだった。
両親からのプレゼントは嬉しくて、その日はリングをはめたままベッドに入った。両親の気持ちが形になったリングをはめると、「今よりももっと幸せになって」と、そっと背中を押してもらえた気がした。
この決断が正しいのかどうかはわからないけれど、
大切に育ててもらったから、
たくさん愛情を注いでもらったから、
だから、私は、いつでも胸を張って「幸せだよ」と笑いたい。
笑わなくちゃいけない。



