きみがいる、この世界で。


職員室のドアまで見送ってくれた先生に頭をさげ、昇降口へ向かう。靴箱でローファーに履き替えていると、外から、誰かがやってきた。反射的に顔をあげると、

「あっ」

私の存在に気づいた千枝は、気まずそうな表情ーというよりは、むしろ迷惑そうな表情ーを浮かべた。靴箱に置いていた、体育の授業で使う運動靴を取り出してカバンにしまう私の隣で、彼女は私が元からいないような態度で靴を履き替えた。

「千枝」

黙ったまま校舎の中へ入ろうとする彼女を呼び止める。無視されるかもしれない、と思ったが、彼女は立ち止まった。振り返りはしなかったけれど、それでも立ち止まってくれただけでよかった。

「今までごめんね」

彼女はかすかに顔を動かす。何も発することなく、そのまま廊下を歩いて行った。



地下にある昇降口から、地上へ続く階段を勢いよく駆け上る。外に出ると、思わず目を瞑ってしまうほどの、夏らしい強い太陽の光に目を細める。ゆっくりと目をひらくと、雲ひとつない、鮮やかな青い空がどこまでも広がっている。


終わった。
これで、終わったんだ。


大きく息を吸い込む。

自分の中にあった黒くて重い塊が、身体の中を駆け巡る熱風と共に散っていった。