きみがいる、この世界で。


「からかいがなくなったのは嬉しかったし、正直に言うけど『助かった』と思ったよ。でもそれ以上に、俺、なんだか嬉しかったんだよ。やっぱり色が黒いのは自分でも気にしていたし、なんつーか、欠点というか、カッコ悪いと思っていたから。それを『かっこいい』って言ってくれて、救われたっていうか。そうか、これを『かっこいい』って思ってくれる人もいるんだ、って。その日から、大袈裟に聞こえるかもしれないけど、俺、自分に自信を持てるようになった。それで……その日から泉本のこと、ずっと好きだった」

知らなかった。確かに異性の中で、陶山はかなり仲が良いし、彼の人間性は私も好きだ。でも、それは”友達”としてで、”異性”として好いてくれていることには気づいていなかった。

「ごめん、本当はこんな感じで言うつもりじゃなかったんだ。でも、嘘じゃない。泉本のことが好きで、それで、次は俺が泉本の力になりたいって思っている」

「陶山……」

何も言えずにいると、彼は「急にこんな重い話されても困るよな?」とおどけた様子で言った。

「だからさ、もう遅いかもしれないけど、転校のこと、考え直してくれないか?」

「それはちょっと難しいかも……。もう転入手続きを進めていて、新しい学校へも入学届提出したの」

私の言葉に、陶山は「そっか……」と俯く。

「陶山」

呼びかけに応えてくれた彼の表情には悔しさが浮かんでいて、彼が本当に私のことを想ってくれていることを知った。同時に、今更ながら気づく。あれだけ苦しかった学校でも、きちんと自分のことを大切に想ってくれている人がいた。自分が気づいていなかっただけで、本当は、自分のことを大事に想ってくれている人は自分が想像しているよりもたくさんいるのかもしれない、と。

「陶山の気持ち、今まで気づかなくてごめんなさい。あの、私……好きな人がいるの」

言う必要があるのかわからないけれど、それでも、自分に正面からぶつかってきてくれた彼には、私も本当の気持ちを伝えたかった。私の告白に陶山はかすかに顔を顰めた。でもそれはほんの一瞬で、彼は普段と変わらず爽やかな笑みを浮かべた。

「そうだったんだ。気づかなかった。同じ学校のやつ?」

「ううん」

素直に答える。

「だから、ごめんなさい。陶山の気持ちには応えられない」

そっと告げた私に、陶山は「うん、だよな」と苦笑する。

「好きな奴がいることは知らなかったけれど、泉本がそういうふうに俺のことを見ていないことは気づいてたんだ。だから、うん、だよなあ、って感じ」

「……ごめんなさい」

「いや、泉本が謝ることじゃないよ」

陶山は「勝手に俺が泉本のこと想っていただけだから、謝んなって」と明るい声で言う。でも目はやはり悲しそうで、私は申し訳なさに身を縮こませた。

「でもさ、もしよかったら、その好きな奴と付き合うまで、近くにいさせてよ」

彼の申し出に激しく首を横に振る。

「陶山の気持ちを弄ぶみたいなことできないよ」

「そんなふうに思わないよ。俺、昔庇ってくれたこと本当に感謝しててさ。恋愛的な気持ちとはまた別のところでも、泉本のこと大切に想っている。泉本がしんどい時は力になりたいと思っているから、だから、新しい学校で困ったことがあったり、話を聞いてほしい時があったら、いつでも気軽に連絡して。な?」

「……ありがとう」

彼はいつの間に、これほど優しく強くなったのだろう。
自分の記憶の中にいる彼とはすっかり別人になっている。