力強く言う彼に「『次』?」と尋ねる。陶山は「昔のことになるけど」と言ってから、静かに言葉を続けた。
「俺、中学一年の頃、いじめられてたっていうか、よくからかわれていたの覚えているだろ。ほら、安本たちから」
確かに陶山と安本が仲良くなったのは高校に入ってからだった。中学生の頃はそれほど一緒にはいなくて、むしろどちらかというと、陶山は彼のことを好きではなかった気がする。だって。
「……黒人、って言われてたこと?」
ためらいながら確認した私に、陶山は「そうそう」と苦笑した。
色黒の陶山は、特に中学一年生の頃、人より肌が焼けていて、その黒さが目立った。後から聞いた話だったけれど、受験を終えてから、ずっと我慢していた好きなサッカーを、毎日日が暮れるまでしていたらしい。冬から春にかけての季節とはいえど、毎日太陽の下にいるとそれなりに焼ける。それに加え、彼は焼けやすい体質だったからかなり色黒になっていた。そんな彼を見て、安本をはじめ、クラスの男子数人は毎日のように陶山を『黒人』と揶揄した。
「あれ、本当に嫌だったんだよ。でもあの時、小柄だったから言い返しづらくてさ。もし言い返して殴られたらどうしようって。特に安本とか学年の中で一番レベルに身体大きかっただろ。よく取っ組み合いの喧嘩もして先生たちを困らせていたし」
「そうだったね……」
今でこそ背も高く筋肉質だけれど、入学したての頃の陶山は、まだ背も低く、どちらかというと貧弱な印象だった。
「でも、やっぱり腹立つし。どんどんムカついてキレそうになった時、泉本が助けてくれたんだよ」
「私が?」
思わず確認するように聞き返してしまったのは、正直全く記憶にないことだったからだった。陶山もそれはわかっていたようだった。
「そうだよ、きっと覚えていないだろうけど」
素直に頷くと「だよなあ」と彼は爽やかに笑った。
「確か泉本が日直の日だった。放課後、まだ残っていた俺に、安本たちがまたからかってきてさ。しつこさにうんざりして、我慢も限界になって言い返そうとした時、泉本が日誌を書きながらあっけらかんと言ってくれたんだよ。『いいじゃん、日焼けしてて。かっこいいじゃん、スポーツマンらしくて』って」
「……そんなこと、言いましたかね」
「言いましたね」
「やっぱり覚えてないよな?」と確認する彼に、申し訳なく思いつつも頷く。
「それを聞いて、あいつら、黙ったんだよ。やっぱりあの年頃は特に、表には出さないけど、女子に『かっこいい』って言われたい気持ちがあるから。泉本がキッパリ言ってくれたおかげで、今まであれだけからかってきたのに、その日以降何も言われないようになったんだよ」
知らなかった。確かに陶山へのからかいは気づいたら無くなっていたけれど、そのきっかけは、自分が発した言葉だったなんて。
「俺、中学一年の頃、いじめられてたっていうか、よくからかわれていたの覚えているだろ。ほら、安本たちから」
確かに陶山と安本が仲良くなったのは高校に入ってからだった。中学生の頃はそれほど一緒にはいなくて、むしろどちらかというと、陶山は彼のことを好きではなかった気がする。だって。
「……黒人、って言われてたこと?」
ためらいながら確認した私に、陶山は「そうそう」と苦笑した。
色黒の陶山は、特に中学一年生の頃、人より肌が焼けていて、その黒さが目立った。後から聞いた話だったけれど、受験を終えてから、ずっと我慢していた好きなサッカーを、毎日日が暮れるまでしていたらしい。冬から春にかけての季節とはいえど、毎日太陽の下にいるとそれなりに焼ける。それに加え、彼は焼けやすい体質だったからかなり色黒になっていた。そんな彼を見て、安本をはじめ、クラスの男子数人は毎日のように陶山を『黒人』と揶揄した。
「あれ、本当に嫌だったんだよ。でもあの時、小柄だったから言い返しづらくてさ。もし言い返して殴られたらどうしようって。特に安本とか学年の中で一番レベルに身体大きかっただろ。よく取っ組み合いの喧嘩もして先生たちを困らせていたし」
「そうだったね……」
今でこそ背も高く筋肉質だけれど、入学したての頃の陶山は、まだ背も低く、どちらかというと貧弱な印象だった。
「でも、やっぱり腹立つし。どんどんムカついてキレそうになった時、泉本が助けてくれたんだよ」
「私が?」
思わず確認するように聞き返してしまったのは、正直全く記憶にないことだったからだった。陶山もそれはわかっていたようだった。
「そうだよ、きっと覚えていないだろうけど」
素直に頷くと「だよなあ」と彼は爽やかに笑った。
「確か泉本が日直の日だった。放課後、まだ残っていた俺に、安本たちがまたからかってきてさ。しつこさにうんざりして、我慢も限界になって言い返そうとした時、泉本が日誌を書きながらあっけらかんと言ってくれたんだよ。『いいじゃん、日焼けしてて。かっこいいじゃん、スポーツマンらしくて』って」
「……そんなこと、言いましたかね」
「言いましたね」
「やっぱり覚えてないよな?」と確認する彼に、申し訳なく思いつつも頷く。
「それを聞いて、あいつら、黙ったんだよ。やっぱりあの年頃は特に、表には出さないけど、女子に『かっこいい』って言われたい気持ちがあるから。泉本がキッパリ言ってくれたおかげで、今まであれだけからかってきたのに、その日以降何も言われないようになったんだよ」
知らなかった。確かに陶山へのからかいは気づいたら無くなっていたけれど、そのきっかけは、自分が発した言葉だったなんて。



