きみがいる、この世界で。


「ごめん、待たせた」

陶山は予想に反し、10分も待たないうちにきてくれた。額には大粒の汗がいくつも浮かんでいるから、きっと急いでやってきてくれたのだろう。

「ううん、あの、久しぶり」

「久しぶり。体調は? 大丈夫なの」

彼は椅子に座ると、店員さんが運んできてくれたお冷を一気に飲み干した。

「うん、大丈夫、ありがとう」

「それならよかった。今年の夏風邪は長引くってテレビでも言っていたからな、ぶり返さないように気をつけろよ」

お昼の時間だったので、私たちは食事も頼むことにした。私はBLTサンドウィッチとアイスコーヒーを、陶山はローストビーフ丼とジンジャーエールを注文した。

「後でパフェも食べたいな、このでっかいやつ。二人で分けようぜ」

メニューの最初にのっている大きなパフェを彼は指差す。きっとお店の看板メニューなのだろう。「いいね、美味しそう」と頷くと、陶山は「やっぱり夏はアイスだよなあ」と嬉しそうに笑う。

注文した料理が運ばれてくるまで、会わなかった一週間の話ー本当は一ヶ月以上あっていないんだけどーをしてくれた。直前で受けた一学期の期末試験が散々の出来だったこと、春に受けた模試が一気に返って来てそしてどれも結果が思わしくなかったことからお母さんに「部活を続けたいなら朝3時に起きて勉強しなさい」と怒られたこと、でも部活は順調で楽しいこと。ちなみに主将と副主将はあれほど険悪だったにも関わらず、今はその面影がないほどきちんと話し合いをして上手くやっているらしい。主将と副主将の対立で部内の雰囲気が悪くなっている時、陶山気を揉んでいたから「よかったねえ」としみじみ言うと「あの時は本当にサンキュ」と陶山は少し照れくさそうに笑った。

「それで、話って?」

「ああ、うん、あのね」

口の中に残っていたサンドウィッチをアイスコーヒーで流し込む。

「できれば新学期まで黙っておいてほしいんだけど」と前置きをしてから、転校することになったと告げる。

「転校?!」

大きな声を出した彼に、シーッと人差し指を口に当てる。

「いつ? いつ転校すんの?」

「二学期から。正式に言うと明日退学届を提出しに行く」

「そんなこと、担任、一言も言っていなかったけど」

「夏休み明けに先生の口から報告してもらうことになっているの」

「……それって、もう決定なの?」

「『決定』って?」

「だから、もう転校するのは決定なの?」

「うん」

私の頷きに、陶山は持っていたスプーンを置く。唇を噛んで、それから綺麗な二重の目力のある目で私を見つめた。

「転校、やめねえか?」

「やめる?」

彼の提案の意図がわからず、首を傾げる。陶山は少しだけ言いにくそうにためらいながらも「原因、柴山たちだろ?」と再度私に問いかけた。柴山とは、千枝のことだ。