お母さんは私をリビングのソファに座らせると、私が好きなお菓子と一緒に、紅茶を持ってきてくれた。
「これ……」
フレッシュなイチゴの香りがお気に入りの、アイスストロベリーティー。口に近づけると、ふんわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「涼音、好きでしょう。嫌なことがあった時はね、好きなものを好きなだけ食べるの。そしたら元気が出るから」
お母さんはいたずらっ子のようにニカッと笑う。
当然のように出された、私の好きなもの。でも、当然じゃない。お母さんが私の好きなものを知ってくれているのは、ずっと私を見てくれていたから。ずっと私のそばにいてくれたから。
たった一ヶ月だったけれど、両親から離れ一人で暮らし、初めてわかった。家の冷蔵庫には、今目の前にある私が大好きなチョコレート菓子が必ず入ってある。それは、私が頼まなくても、なくなる前にお母さんが買ってきてくれているから。学校に履いていくローファーがいつも汚れていないのは、お父さんが自分の革靴と一緒に私の分も磨いてくれるから。当然だと思っていたことは何も当然ではなくて、私はそんなふうに、両親から愛を注いでもらっていた。
「……ねえ、涼音」
お母さんは泣き続ける私の背中を優しくゆする。
「学校で、何か辛いことがあった?」
「……どうして?」
「少し前から様子がおかしかったから」
顔をあげておずおずとお母さんを見る。お母さんは慈愛に満ちた目で私を見つめた。
「本当は話してくれるのを待とうか、とお父さんと言っていたのよ。でも、きっかけがないと逆に話しづらいのかな、とも思っていたりしていてね」
「話してくれる?」という優しい促しに、首を横に振ることはしなかった。私の軽率な行動で千枝と佳奈美を怒らせてしまったこと、彼女たちに嫌がらせを受けていること。学校にいくのが辛いこと。
一気に話し終えると、アイスティーを喉に流し込む。いつもより甘さを強く感じた。



