その熱の篭った瞳の奥には、どこか深い闇が隠れているような気がした。杏は「離してください」と言いながらヤクサの手を振り解き、後ずさる。

「私、申し訳ありませんがヤクサ様の妻になることはできません。他を当たってください」

ここにいることは危険だと思い、杏は逃げようと彼から視線を逸らす。刹那、体に腕を回されて体重をかけられ、杏の体は簡単に地面に倒されてしまった。

「逃げることなど許さぬ。杏、お前が我の妻となるのはもう決定事項だ」

ヤクサは「残念だったな」と言いたげな目で杏を見下ろし、どこからか取り出した縄で杏を縛っていく。杏は抵抗したものの、それは無駄なことだった。両手は後ろで組まれてキツく縛られ、胴にも縄が巻き付けられていく。

どこか知らない場所へ攫われる、そう思うと恐怖から杏の頰を涙が伝っていく。縛られて動けない体を捩り、杏は大声を上げた。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇ!!」

だが、声が枯れるまで叫んでも誰も来ない。人の気配すら感じない。