「む、むずかしいカップの選び方、置き方、
 注ぎ方、一番むずかしいのはお客様へ丁度良く感じる笑顔....いつも冷や汗がでてしまう。
ななみさんの前でも私はいつもはにかんだ笑顔で接していたのだろうか?」

しのりは今日も喫茶店のアシスタントとして初老の店長永次に指示を受け、
せっせと
コーヒーカップを磨く。

しかしながら磨けども、もともときれいなままだ。なぜ磨く?と
 永次に尋ねると、
「様になるからだ。暇そうにしてたら暇を招く。まずは喫茶店という雰囲気を身につけろ」と冷たくあしらわれた。
 要は身だしなみも含めてしっかりしろということだろうか、
窓から見える景色は昼過ぎで日が高く斜めに差してくる。
僕はブラインドを下ろした。
店内が薄暗くなると、

「ふう、ようやくシフトも終わり今日一日解放されるな」と僕はほっと息を吐く。

「しのりくんお疲れ様、今月の給料だよ」
 ありがとうございます店長〜
(でもいただいたぶんでアイムズコーヒーに好きなだけ居たい気もするけどそれもできないからなんだかなぁ)と僕は呟いたとき

永次店長が、

「しのりくんもだいぶ慣れたしひとつ出張でもやってみるか?」

「出張ですか?」

「ああ大鶴公園の花火大会の出店でソフトクリームとアイスコーヒーを売ってこい。任せたよ」
 
 ええ、それは、どうも
 とても緊張します。
 
蝉が毎日忙しく鳴いている
夕暮れどき 僕はまっすぐ家路に向かう。

出張かあ