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「ねぇななみさーん」



私を透き通った若々しい声で呼ぶ男がいる。


彼を知っている。声を覚えている。



そう、顔は忘れた。



私達は声も姿もイメージさえも忘れてしまうのだが



地獄で聞いた「てめえなんて大っ嫌いよ」と、
言われて
『オマエだけは忘れないその言葉を吐かれて
あんたに絶対言い返してやるからな!
生まれ変わっても絶対晴らしてやるぜ、』

と言わんばかりに


忘れられない声。



切なくなるかのように、


胸が張り裂けるかのように、響いてくる....あの


声。




「ねぇ?聞いてる?


注文したいんだけど!」




『うっせえなぁ〜〜〜慣れ慣れしいよ!!』




〔どしたの?店長?〕
驚くようにコーヒーメーカーを掃除しながら
鏡子が心配そうにそういって肩を叩く。



『あら、私、夢見てたみたいだわ
     朝からずっと半分夢見てて、
今でもうたた寝気分よ』

私はそう言うと鏡子はコーヒーメーカーを
丁寧に磨き、仕込みの仕事に取り掛かった。
今日は朝から忙しくなる気がする。

新緑の季節、新年度も始まり、出会いと
新たなる人生の始まりを感じさせる、

心地良い風と日差し、

街ゆく人々もスーツ姿が目立つ。


『鏡子ちゃん〜今日はなんだか
    忙しくなるような気がするね?』



〔そうすね〜〜でもうちらにとっては
   それも変わらない毎日(宇宙)ですよ〕


鏡子のひとことは相変わらず笑えてくる。


変わらない毎日、宇宙、


私達は何一つ変わらない


気のいい仲間と冗談言いながら仕事をして、
お客様にコーヒーを提供させていただき、
戯れ合うようにあいづちを打ち、

あのお客様は不思議な方だなとかうわさして


お掃除して、


彼方を想い夢を見る。


その繰り返し、

繰り返し、


その日常は極めて安定しているけど


決して逃れられない宇宙、毎日。


〔店長〜お電話ですよ〜〕


『ん?誰かな』


『はい変わりました。アイムズコーヒーでございます』