それからそれから
グレイスはある日、口を滑らせた。


『国外逃亡犯と、殿下のことを呼ばれた方もおられるのです』

殿下の留学は、殿下の穴事件以前に決定していた。
ご出国のタイミングがあの直後になっただけだ。
殿下ご本人は気にされていたけれど、穴の修復は直ぐにされると俺達だって思っていた。

まさか当時の学園長の一存で、それを遺すことに決定したとは思いもよらなかった。

王家の影は何をしてたんだ。
報告されていなかったのか?


「本棚が倒れ、何千冊の本の間から全くの無傷の殿下が立っておられた、と……
それは奇跡以外の何物でもないと、記念に修復するべからず、らしいです」


いやいや、奇跡を起こす御仁は国外逃亡犯なんて言われないからね?
もしかして、同じく留学した俺とイーサンも逃亡犯なの?
殿下の逃亡を幇助した者と、学園では有名なの?
5年も費やしたから留学は、もしかしてほとぼりを冷ますまで、なんて思われてたの?


震える声で尋ねた俺の顔を見て、グレイスが両手で口を押さえた。


「何も知らない小娘の言うことなど……」

ウチの天使は自分の都合で、幼く純真な少女の
顔をする。

それ以上何も突っ込めなくなる俺のことなんて
彼女からは、まるっとお見通しなのだ。