美聖が闇夜に吐き出した息が白い。寒さで洟を啜ると涙の余韻を残していて、一度収めた切なさが込み上げてくる。


ライブ後、事務所から呼び出しのあった片平は自分が美聖を送迎できない代わりに、事務所系列のタクシーを呼んでくれた。


まだ関係者入口から人が出てくる気配はない。ドームは未だに明かりが点いているが、観客の足は既にそこから遠のいている。


美聖が息吹を待ち続けている間、会場を後にするファンたちの泣き声と話し声は美聖の耳にも届いた。



『……なんか信じられないよね。もうcoc9tailに生で会えないなんて』

『しかも息吹が来年からどこにもいないなんて』

『柊 美聖のアカウントとかセルフ凍結しそうで心配』

『たしかに。coc9tailと息吹のことしか発信しないもんね。王子、大丈夫かなあ』

『ていうか私が芸能人だったら何がなんでも息吹と友達になったのになあー』

『それなー』『はあ一般人しんどー』『泣けてきた』




美聖は息吹を待ちながら、ファンの子達の会話を思い出す。