あの日をポケットにしまって



ずっとポケットにしまっていた名前を呼ぶ。

消しても消えない思い出は、忘れたくなかったからなんだ。



あの頃のあたしは、璃久徒といると泣き虫になって、弱くなって、

周りが見えなくなって、自分のことも考えられないくらいだめになってた。


だから自分でバイバイを告げたくせに。


璃久徒を思い出して泣いてしまいそうだったから、ぜんぶポケットにしまってたんだ。

璃久徒との思い出を、悲しいものにしたくなかった。


だって、幸せだったんだよ、あたし。



夏奈のあったかい手が背中に触れる。



「辛いよね強引に思い出させるようなことしてごめん」



夏奈の声は震えていた。

きっと申し訳無ないと思ってる。


でもちがう。

これは悲しい涙なんかじゃない。



「ちがう…ちがうよ夏奈」



今やっと



「これは嬉し涙…っだから」