あの日をポケットにしまって



「こっちにイルカいるよ」

「あーほんとだ」



ずっとポケットにしまったままの思い出が溢れて、溢れて、

涙を堪えるのに必死だった。



「写真撮ってあげるよ」

「いやいいよあたしは」



夏奈に向けられたカメラ。

照れくさくて目を逸らす。

それですら、あの日と重なった。



3人で一緒に水族館に行ったとき、璃久徒がカメラ役になって私達を撮ろうとするから、何度も何度も恥ずかしがって、あたしはいいよって

カメラを無理やりどかしたときに見えた君の顔が、すごくすごく笑ってたこと。



「じゃぁ一緒にとろう」



夏奈が、ふっとはにかむ。

あたしを気遣ってくれてるのが伝わって涙が出そうになる。

夏奈は前に進めないあたしをずっと見守ってくれて、いま背中をおそうとしてくれているのだ。


写真にうつるあたしは、ちゃんと笑えているだろうか。