あの日をポケットにしまって




「ふふっ……それお願いじゃなくて決意じゃね?」



落ち込んでいたら君が珍しく笑うから、涙が出そうなほど嬉しくて

思わずキスしてしまったあれは、すごく恥ずかしかった。

唇が離れた瞬間、優しい瞳で見つめられるのが


好きだったよ





__いきなり視界が真っ暗な夜に変わり、あぁまたかと思う。

またあの日の夢を見ていた。


映画の美術監督になるために入った大学で、充実した毎日を過ごしている。


なのに夜中によく目が覚めて、それから眠れなくなることが増えた。


なんとなくケータイを見ると、新着メッセージが一件表示されている。

夏奈からだ。


〈 あした水族館行かない? 〉



もうとっくの前に消した写真が、頭に次々に思い浮かぶ。


…これじゃぁ消した意味ないじゃん



返信しないまま閉じた画面は真っ暗になり、このまま夜に呑まれそうだ。

怖くなって目を閉じる。


まだうまく、あの日の思い出を笑い話にできない。