22時からはじまる恋物語


「驚いたろ、高校生」

薄暗い一本道を、原付バイクを押しながら歩く高崎君。
その横を歩きながら、「ま、まぁ」と軽くショールを掛け直しながら答える。

5月とは言え、23時も近くなると、まだ肌寒い。

塾講師の宿命だけど、バイトが終わる時間はどうしても遅くなる。
特にわたしの担当してる生徒は1番遅いDコマの子が多いので、必然的にシフトの時間帯も後ろ倒し。

でも、この澄んだ夜の空気は、嫌いじゃない。

「翔も確か電車勢だから。シフト被れば帰りは一緒になるだろうな」
「高校生なのに、こんな遅い時間まで大丈夫なの?」
「まぁ、生徒の頃もこの時間まで残ってたしなぁ」

「1人で帰る様なら、室長が送るだろ」という言葉に、ちょっとだけ安心する。

「1人と言えば、桜井ごめん、俺来週から研究室の都合でDコマ入れねぇんだわ」
「あ、そうなの?」
「夏には落ち着くと思うから、夏期講習明けくらいからまた被ると思うんだけど...」
「帰りの心配してくれてる?大丈夫だよー、別に慣れた道だし」

「いや、でもそういうわけには...」と呟きながら、カラカラと重そうな原付を押す高崎君。
彼は方向こそ一緒だけど、原付で来ているからわざわざこうして並ん帰る必要はない。
でもこの時間帯、人通りの少ないこの道を女の子1人で歩かせるのは危ないと、いつも駅まで送ってくれるのだ。

彼だけじゃなく、基本この時間帯まで残る女性講師は、誰かしら男性講師が送り届けている。
それが、この塾の暗黙のルールらしい。

確かに安心感はあるけど、そう遠くはない駅だし、大通りにも面しているから、そこまで不安な帰り道ではないのだ。

「...まぁ、ちょっと考えるわ」

高崎君はそう言いながら、ふうっと息を吐く。

肌寒いとは言え、その息はもう白くはならなかった。