それでもそんな君が好き

最近はあまり思わなくなっていた言葉が浮かんだとき、視界の端できらりと何かが動いた。


「ほんとお転婆だな」


その正体は桐谷くんで、私のそばに寄るとそのまましゃがむ。
もちろんこんなセリフも動きも台本にない。

驚きと不安で動けずにいると、桐谷くんは私が着ているドレスに触れて――

ビリッ!


「えっ!?」


破れていたレースの部分を手でちぎってしまった。
そして邪魔にならないように近くにあった大道具の後ろに投げる。

どうしたらいいかと悩んでいた種の1つが、桐谷くんのおかげであっさりと解決してしまった。

驚きと感激とまだ残る不安がぐるぐると混ざる。
お礼、言わなきゃ。


桐谷くんがアドリブで助けてくれたんだ、私も頑張らなきゃ。

だけど自信なんてない。
桐谷くんみたいに上手くなんてできない。

でもここで私が動かなかったら、彼の頑張りも意味がなくなってしまう。

これ以上無言の時間は作れない。
なにか言わなきゃ、動かなきゃ。

声を出すために小さく息を吸った。
だけど――


「あ……」


聞こえてきたのは震えてかすれた小さな声だった。
とんでもない緊張感と不安で上手く声を出すことができない。

声を出そうとすればするほど喉がカラカラになる。
心臓が痛くなる。
嫌な汗が出てくる。

こんな状況に身体はやっと気づいたのか、目が潤んできた。

ダメだ。
こんなところで泣いてしまったら余計に劇を続けにくくなってしまう。

どうにか泣かないように、ぎゅっと力をこめたとき――