それでもそんな君が好き

「……演技だってわかってるのに、嬉しくなっちゃったりして。だめだよね」


魔女が邪魔しに陸にやって来るまでは、人魚姫は王子からの寵愛を受ける。
そのときのセリフや雰囲気が私にとってはドキドキしてたまらなかった。

舞台の上での私は早坂結衣ではなく人魚姫で、桐谷くんは王子様だってわかっているのに。
甘いセリフも優しいまなざしも、私に向けられていると勘違いしてしまう。


「……でも、好きだから仕方ない、よね?」
「へえ、結衣ちゃんって桐谷くんのこと好きなんだ」
「へっ!?」


突然ふってきた声に驚いて顔を上げる。
そこにはバイト先で別れたはずの相田くんがいた。


「えっ!? ど、どうしてここに」
「結衣ちゃん台本忘れてたから届けてあげようと思って」


そう笑顔で言って、右手に持った台本をひらひらさせる。
そんな相田くんに対して私はまだ動揺していて「ありがとう」と笑い返すことはできなかった。

まさかバイト先からここまでずっとついてきていたんだろうか。


「えっと、その、どこから聞いてた……?」
「んー、人魚姫の役もらったって言ってたとこかな」


そ、そんな前から……!?
嘘だと言ってほしい。

そこから聞かれていたなら上手く誤魔化すこともできない。