それでもそんな君が好き




「にゃー」
「しいちゃん、久しぶりだね」


バイトを終えた帰りにガレージに寄ると、しいちゃんに久しぶりに会った。
最近は文化祭の準備とバイトとで、忙しくてなかなか寄る時間がなかったのだ。

きょろきょろと辺りを見回す。
だけど人影は見つからなくて、少し残念な気持ちと、それならしいちゃんに話したいことを自由に話せるという喜びで半々だった。


いつものように冷たいコンクリートの上に座る。
するとしいちゃんも私の横まで歩いてきてそのまま足を曲げた。


「あともうちょっとで文化祭なんだ。私のクラスは人魚姫っていう劇するの。知ってる?」

「にゃあ」

「ふふ、一応魚のお話だからしいちゃんも楽しめるかも」


でもさすがに人魚は食べないよね?
なんて頭の片隅で考えて少し笑えてしまった。


「私、人魚姫の役もらったの。あ、桐谷くんは王子様役だよ」

「にゃー」

「いつもの桐谷くんからはあんまり想像できないよね。だけど……かっこいいんだよ」


頭に劇の稽古をしている桐谷くんが浮かぶ。

劇中の王子様は爽やかで優しく、穏やかな性格だ。
そんなキャラを演じる桐谷くんは正直王子様に似てはいない。
セリフも桐谷くんが日常では絶対言わないだろうと思うものばかりだ。

だけどそんな言葉も彼は恥ずかしがらずに演じる。
それが私にとっては意外で驚いた。

どちらかと言わずとも私の方が恥ずかしがるばかりで迷惑をかけている。


「桐谷くん演技上手いんだ。だから変にドキドキしちゃって」


あははと苦笑いしても、しいちゃんはこちらを見向きもしない。
それが悲しくもほっと安心してしまう。