それでもそんな君が好き




「またのご来店お待ちしてます」
「ありがとう」


文化祭の練習が終わったあとのバイトはいつもよりもしんどい。
だけれど今日は幸いなことにお客さんが少なかった。
がらんとした店内に従業員の声が小さく響く。

奥の方で店長が「暇だなー」とマネージャーにこぼしているのが聞こえた。
とうとうやることもなくなってきて、次はなにをしようかと視線を動かすと、相田くんが私に近づいてくるのが見えた。


「ねえ、結衣ちゃんのクラスって文化祭なにするの?」
「私のクラスは人魚姫だよ。相田くんは?」
「オレのクラスはオリジナル。担任がはりきってるよ」
「えっ、それはすごいね」


私のクラスも力を入れていると思っていたけれど、まさか隣のクラスもだとは。
元になる作品がないのなら脚本を書くだけでも大変そうだ。


「結衣ちゃんは舞台に立つの?」
「えっ、うん」
「へえ。何役?」


そりゃもちろんこの会話の流れなら聞いてくるよね、と内心焦る。
わかっていたけれど嘘をついても文化祭の当日にわかってしまうし、正直に言うしかない。


「人魚姫役、だよ」


主人公をやるというのを話すのは少し気が重い。
お前が? って思われるのも怖いし、意外だねなんて笑われるのも落ち込むから。

だけど相田くんはそんな私の不安を知ってか知らずか「それはすごいね」とにこりと口元を緩める。