それでもそんな君が好き

「あんま人来ないだろうし、ここでいいか」
「……うん」


たどりついたのは屋上に繋がる階段だった。
返事をするのと同時に、やっと彼の手が離れる。

喧噪が遠くて、まるでふたりだけの世界みたい。
でも私にとってはちっともロマンチックに感じなくて、すごく居心地が悪かった。


「座ったら?」
「……うん」


すでに階段に腰を下ろしている桐谷くんに促されて、彼とは距離をとって座る。
そんな私を見て桐谷くんが訝し気な顔をした。


「すげえ警戒すんじゃん」
「……そんなことないよ」


嘘だけど嘘じゃない。
彼はそれを見抜いているのかいないのか、ただ興味がないだけか、それ以上は何も言わなかった。
そのことに少しほっとしていると沈黙が流れる。

この空気はもう話すしかないだろう。
ぐっと覚悟を決めて顔を上げると、桐谷くんと目が合った。


「俺が何話したいのかわかってるよな?」
「……うん」
「そか。じゃあ……」


腹をくくったはずなのに、彼の言葉の続きが怖くて聞きたくなくて、思わず体に力が入る。